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FMシンセの音づくり(5)アルゴリズムを使いこなす

FM音源の使い方

FM音源講座の第5回です。

前回は、FM音源のアルゴリズムについて説明しました。


今回は応用編です。
FM音源の音づくりについて、アルゴリズムから迫っていこうと思います。

シンセサイザーの音づくりについて

まずその前に、「音づくり」について考察してみたいと思います。

シンセサイザーの音作りには、ふたつの方法があるかと思います。ひとつ目は、

 求める音を「組み立てる」やり方

そして、もうひとつは、

 音を「さぐる」やり方

です。

組み立てる」やり方は、まず「どんな音をつくるか」を頭に思い描いて進めます。その目的に向かって機能を選択し、パラメータを設定していくわけです。

さぐる」やり方では、とりあえず欲しい音になるまでパラメータを動かしつつ調整を進めていきます。プリセットの修正などもこれですね。

で、FM音源はというと……「さぐる」やり方よりも「組み立てる」やり方の方が向いている音源ではないかなぁと思います。

FM音源の場合

モジュラーシンセの音づくりでは、まず必要なモジュールの選択から始まります。パッチングも必要です。普通のシンセサイザーはパッチングの必要はありませんが、それでも目的の音に向かって波形を選び、機能を選択し、パラメータを設定するという作業が発生します。

そしてFM音源の場合は、まず最初に必要になるのが「アルゴリズムの選択」です。

DX7のアルゴリズムNo.19

でも、いきなり「アルゴリズムを選べ」といわれても、最初はなにを選んだらよいかわからないと思います。アナログシンセとのあまりの違いに挫折していった人も多いでしょう。でも、ここであきらめてはいけません。

大切なのは、まず「音をイメージする」ことです。

ここでのイメージは、べつにキッチリしたものでなくても大丈夫です。もちろん「ピアノの音がつくりたい」とか「サックスの音がつくりたい」でもよいですが、もっと漠然と「シャラシャラして広がりがある、やわらかいパッド」とか「ゴリっとしていて、かつ分厚いベース」とかでも構いません。

肝心なのは、「シャラシャラ」とか「広がり」とか「やわらかい」などのキーワードを明確にすることです。そうすれば「どのアルゴリズムを選べばよいか」が自然と見えてきます。

おさらい

さて、前回は「広がりの横と、深みの縦」というお話をしました。
ちょっと乱暴ですが、横は「足し算」、縦は「掛け算」で、縦に積むほど複雑に変化する波形をつくれます。

横に広がるオペレータと縦にのびるオペレーター

そして、フィードバックは、オペレーターひとつでもモジュレーションによる音色作成が可能です。フィードバックレベルをマックスまで上げれば、ノイズをつくることもできます。

FM音源のフィードバック

そういう前提でアルゴリズムを見ていくと、32個それぞれの役割が見えてきます。

アルゴリズムの違い

たとえばアルゴリズム10番と11番をくらべてみます。

DX7のアルゴリズムNo.10と11

一見、同じようなアルゴリズムのようですが、よく見るとフィードバックの位置が違っています。
フィードバック部分を展開してみると、こうなります。

DX7のアルゴリズムNo.10と11を展開

このふたつのアルゴリズムでは、「OP1」と「OP4」がキャリアとなってます。
つまり、2系列の音源の「足し算」で成り立っているわけです。

左側部分を見ると、アルゴリズム10番の方がに長くなってます。ここを活用すれば、複雑なモジュレーションの音色がつくれそうです。
アルゴリズム11番では、OP4をモジュレーションするOP6の波形をフィードバックでつくり込めます。への可能性が広がりそうですね。

このようにフィードバックの位置ひとつをとってみても、アルゴリズム毎の役割が見えてきます。

横並びのモジュレーター

ここで少し寄り道です。オペレーターの「並び」について考えて見ます。

いままで何度もでてますが、オペレーターを縦に並べるとキャリアとモジュレーションの「掛け算」の関係になります。また、横に並べるとそれぞれが独立するので、並列して「足し算」の関係で使うことができます。

横並びのオペレーターと縦済みのオペレーター

ここで、アルゴリズム10番のOP4〜OP6の部分を見てみましょう。

DX7のアルゴリズムNo.10

OP5とOP6はどちらもモジュレーターで、「横並び」の状態でOP4を変調しています。

で、ここでのOP5とOP6の関係も「足し算」と考えてOKです。
つまり、モジュレーションソースの足し算として機能しているわけです。

DX7のアルゴリズムNo.10でのオペレーター4〜6の役割の説明

ちょっと乱暴ですが、概念的に以下のように考えるとわかりやすいかもしれません。

DX7のアルゴリズムNo.10でのオペレーター4〜6の解説
※あくまで概念で、こういう音に
なるわけではありません

実際の音作りでは、OP5、OP6のエンベロープを使って、2系列の音色変化を制御することになります。そのモジューションの足し算の結果が、OP4の出音に反映されることになります。

複数キャリアの同時モジュレーション

もうひとつ、アルゴリズム19番を見てみましょう。
OP4〜OP6に注目してください。

DX7のアルゴリズムNo.19

ひとつのモジュレーターが、ふたつのキャリアを変調するかたちになってます。
ここも展開して考えてみます。

DX7のアルゴリズムNo.19でのオペレーター4〜6の役割の説明

モジュレーター(のパラメーター設定)は共通になりますが、今度はキャリアの出音が「足し算」になるため、2系列の独立した音源として扱うことができます。
OP4とOP5をデチューンすれば音に厚みをつけられるし、それぞれのエンベロープに変化をつけてもよいでしょう。

アルゴリズムの種類

ここまで、アルゴリズムの一部を分解して、キャリアとモジュレーターの働きを見てきました。実は基本的な説明は、これですべてです。あとは全部で6基あるオペレータをどのように組み合わせ、「縦」に伸ばしていくか/「横」に広げていくかだけです。

で、その定義をおこなっているのが、DX7に用意されている32個のアルゴリズムです。

これらのアルゴリズム、よく見ると4つにカテゴライズされているのがわかります。
それぞれの特徴を見てみましょう。

1.階層型の組み合わせ

まずはアルゴリズム1〜6。
階層型(正式名称ではありませんが、とりあえずそう呼んでおきます)を組み合わせたセットになります。

階層型アルゴリズム

キャリアの真上にモジュレーターをいくつか積み上げたFM音源が、2〜3個並んでいるスタイルです。もっとも基本的なFM音源アルゴリズム群かと思います。モジュレーターの数やフィードバックの位置などで差はありますが、共通しているのは「掛け算」でつくった音源を「足し算」するというイメージです。

階層型アルゴリズムの説明

アルゴリズム毎に2〜3個用意された「柱」を、それぞれ独立したシンセサイザーに見立てるとわかりやすいでしょうか。キャリアの数が多ければ、音源の数が増えます。また、モジュレーターが縦に長い方が、複雑な波形が出ます。それらをどう組み合わせるかで、アルゴリズムを選択していけばよいですね。
理解しやすいです。

2.ツリー型

次はアルゴリズム7〜18。

ツリー型アルゴリズム

アルゴリズム16〜18を見るとよくわかりますが、数の少ないキャリアに対して、枝状に配置されたモジュレーターが特徴です。ここでは「横並びのモジュレーター」の項で説明した「モジュレーターの足し算」が機能します。

ツリー型アルゴリズムの説明

ひとつのキャリアに対する「モジュレーションの変化の複雑さ」に重点を置いたアルゴリズム群になるでしょうか。なお、アルゴリズム7〜15は、ツリー型+階層型の足し算になってますね。

3.キャリア並列型1

アルゴリズム19〜25。
アルゴリズムによって、キャリアは3個から最大5個あります。

キャリア並列型アルゴリズム1

音の出口が多いので、基本的には音源の並列足し算型です。
ただし、キャリアに多くのオペレーターが使われるため、必然的にモジュレーターが少なくなります。

で、そのモジュレーターの少なさを「複数キャリアの同時モジュレーション」で補っているのが、このアルゴリズム群の特徴ですね。

キャリア並列型アルゴリズム1の説明

1、2と比べ、「モジュレーションの深さ」よりも「音の厚さ」や「広がり」を表現するのに向いていそうです。

4.キャリア並列型2

アルゴリズム26〜32。
こちらも音源の並列足し算型です。

キャリア並列型アルゴリズム2

前出の3がモジュレーターの少なさを補うような構成なのに対し、4のアルゴリズム群はわりとストレートなオペレーター配置。

キャリア並列型アルゴリズム2の説明

複雑なモジュレーションよりも、アディティブ(倍音加算)的な音づくりを想定したアルゴリズム群といってよいかと思います。

特にアルゴリズム32番に至っては、FM要素はフィードバックのみ。

この「OP6」のフィードバックでクリックノイズをつくり、のこり「OP1〜5」をドローバーような使い方をすれば、オルガンサウンドがつくれます。

アルゴリズムを選んで音を組み立てる

さて、ざっくりとですがアルゴリズムの説明もしたところで、「音を組み立てる」方法に話を戻しましょう。

シンセサイザーでいちから音をつくる場合、最初にどんな音をつくりたいかをイメージします。そして、そのイメージをいったん複数の要素に分解し、それを最終的な「音色」として再構築するために必要なパーツを吟味していきます。

たとえば「シャラシャラした、広がりがあるやわらかいパッド音」。

「シャラシャラ」した部分をどう表現するか。金属が擦れるような音なのか、鈴が鳴るような音なのか。それを何個のオペレーターを組み合わせて再現するか。「広がり」の部分をつくるのにいくつのキャリアが必要なのか。「やわらかさ」を表現するエンベロープの設定は、どのオペレーターに対しておこなうか。

そんなことを考えつつアルゴリズム表を眺めていると、いろいろな可能性が思い浮かんできます。

最後に

いろいろ書いてきましたが、それでもやっぱりFM音源は難しいものです。最後はやはり、慣れ経験の積み重ねが必要になってきます。

あと、実は(FM音源に限ったことではないですが)エンベロープがすごく重要です。とくにFM音源はデジタルEGでパラメータも多いので苦労しますが、いろいろ試してみるのがよいかと思います。プリセットなどのエンベロープの使い方も、すごく参考になります。

それから、シンセサイザーの音づくりは、結局は「よい音」をつくれれば勝ちです。そして「よい音」の定義も、人それぞれだったりします。

ゴージャスな音、曲にバッチリはまる音、聞いたこともないような音や斬新な表現の音などなど。それらを追い求め、日々精進することが、シンセサイザーに向き合う喜びでもあります。

で、「シャラシャラした、広がりがあるやわらかいパッド」をつくろうとしいたら「ぶっといベースの音ができてしまった」……。

もちろん、そういうのもアリです! 「ハッピー・アクシデント」ですね。音づくりに行き詰まったら、アルゴリズム番号を適当に変えてみる「アルゴリズム・ガチャ」を試すのもよいでしょう。予期せぬ音が飛び出してきて、もちろんそれが「よい音」なら大アタリです。

KORG volca fm – DIGITAL FM SYNTHESIZER

1:55くらいにアルゴリズムをいじってますね

さて、いろいろ書き足りない部分はありましたが、FM音源については以上です。

また機会があれば、音を要素に分解/再構築していく部分や、倍音について、エンベロープについてなども補足してみようかなと思います。