前回、KV331 Audioの「SynthMaster」でFM音源をつくる話をしましたが、せっかくなので何回かにわけて、もう少し突っ込んだ使い方に迫ってみます。
これから導入を考えている方、興味はあるけど使いこなせないんじゃないかと(あのそっけない操作画面を見て)ビビってる方、プリセットしか使ってないけどちょっと音もいじってみたいという方に、少しでも参考にしていただければと思います。
まずは「SynthMaster」の基本的な部分を見ていきましょう。
と、その前に……
SynthMasterのよいところ
「SynthMaster」のよいところは沢山ありますが、代表的なところをいくつか。
まず、セミモジュラーシンセとしての半端ない柔軟性があります。
一般的なシンセサイザーの音づくりでやりたいことは「ほぼなんでもできる」といっても過言ではありません。こんなことまでできるの?っていう「こだわり機能」満載。アナログシンセっぽい揺らぎも、自分でパラメータ調整して追い込みが可能です。とにかく、音づくりが楽しいシンセサイザーです。
そしてなにより、こんなモンスター級のシンセのわりには、動作が比較的に軽い。それでいて音もよいです。それでも負荷が気になるようならサウンドクオリティも調整可能だったりと、気配りの行き届いた設計になってます。
SynthMasterの悪いところ
悪いところはやはり、とっつきにくさでしょうか。
操作画面がモジュール毎にタブ切り替えだったり、ある程度わかってないとプリセットのエディットだけでも手間だったりします。まぁ、それもあって弟分「SynthMaster One」が控えてるんでしょうけど。
あとはモジュレーションマトリクスのルーティングが把握しにくいとか、マイナス面は主に音づくりのワークフローが見えづらいところでしょう。それでも、魅力の方が勝るのが「SynthMaster」だったりしますが。
で、そのマイナス面については……
「SynthMaster」の構造がわかってくると、だんだんと気にならなくなってきます。というか、むしろ楽しくなってくるから不思議。モジュラーシンセのパッチングに近い感じですね。
ということで、まずは「理解すること」から始めましょう。
基本の操作画面から
「SynthMaster」の操作画面は、大きく5つのエリアにわかれています。
それぞれのエリアの役割がわかれば、「SynthMaster」の攻略は完了したも同然です。
簡単に、ざっくりと見ていきます。
1.アーキテクチャーの設定
サウンドづくりの入り口は、ボイスのアーキテクチャ設定から始まります。
ここでは、「オシレーター(+モジュレーター)」「フィルター」「エフェクト」の各モジュールの接続方法を設定します。といってもセミモジュラーなので、設定するのは各モジュールのオン/オフと、ルーティングの入れ替えです。
ちなみに上記の設定では、「1オシレーター(リングモジュレーターつき)」+「1フィルター」+「1アンプEG(あらかじめ結線済み)」に「コーラス/リバーブ/イコライザー」を接続した、オーソドックスなタイプのシンセになります。
で、「SynthMaster」では、このアーキテクチャーを2つレイヤーして、1ボイスが構成されます。
2.オシレーター
このセクションでは、シンセサイズの元になる「波形」をつくりだします。
用意されているモジュールは、「オシレーター」が2個に、「モジュレーター」が4個です。
上部に配置されたタブ([Osc1]〜[Osc2]、[Mod1]〜[Mod4])を切り替えながら、各モジュールのパラメーターを設定していきます。
オシレーター
「オシレーター」は、アナログシンセの「VCO(あるいはDCO)」に相当します。
「Basic」「Additive」「Wavetable」「Vector」「Audio in」の5つのモードがあり、ここだけでもかなり追い込んだ音づくりが可能です。
モジュレーター
「モジュレーター」は、モジュレーション専用の「オシレーター」です。Mini moogの3基目のオシレーターが4個あると考えればよいでしょうか。先に紹介したアーキテクチャーでの設定位置によって、リングモジュレーターになったり、フリケンシーモジュレーションに使ったりと、機能が変わります。
なお、もともとはも音がでないオシレーターとして用意されたものでしたが、バージョンアップにより普通に音源としても使えるようになりました。
3.フィルター
ここは、音を加工するための「フィルター」を設定するセクションです。
用意されているモードは、「デジタルフィルター」に加えて「トランジスターラダー」や「ダイオードラダー」、「ステートバリアブル」「Bite」など、「ああ、あの機種を意識してるのね」というニヤニヤが止まらない構成です。
1レイヤーにつき2基のフィルターが設定可能で、接続方法はアーキテクチャーで設定します。
4.モジュレーションソース
ここには文字通り、モジュレーションマトリクスの「ソース」として機能するモジュールが多数つめこまれています。
ここだけ操作感が変わっていて、「タブをクリックして、プルダウンメニューからモジュール選択」という、慣れないとちょっと戸惑う仕様になってます。ユーザビリティ的にどうよ?とは思いますが、まぁモジュール数も多いし仕方ないか……。
で、用意されているモジュールは、通常使いができる「ADSR」が4基、最大16ステージの「MSEG」が2基、レイヤー毎に用意された「Voice LFO」が2基、レイヤー1〜2で共通となる「Globa LFO」が4基、キーボードスケーリングを設定する「Keyscaler」が4基、そして最大32ステージ、XY2軸のアウトプットを持つ変態エンベロープ「2D Env」が2基。すべて同時仕様可能な、超豪華ラインナップです。
すごい量のモジュールです。
これら強力なモジュレーションソースを縦横無尽にパッチングしつつ、音をつくれるのが「SynthMaster」の醍醐味だったりします。
また、「オシレーター」や「フィルター」もそうですが、一度つくったモジュールのセッティングは、プリセットとは別にパーシャルプリセットとしてセーブして再利用が可能です。
5.モジュレーションマトリックス
モジュレーションソースの接続は、「モジュレーションマトリクス」で管理されます。
プリセット音色の場合、各モジュールで「ノブ」をクリックすると、そのノブに設定されているモジュレーションソースの一覧が確認できます。
パッチングは簡単。
モジュレーションソースを接続したい「ノブ」の上で右クリックして、プルダウンメニューから選択していくだけです。
モジュレーションソースが多いので多少面倒ですが、なにをしたいかの目的を持って順番に設定していけば、それほど混乱することはありません。
出てくる音を想像しながらモジュールをつないでいく作業は、だんだんと楽しくもなってきます。このへん、モジュラーシンセでのケーブルのパッチングに近い感覚でしようか。
さて、「概要編」は以上となります。
「SynthMaster」の音づくりも、基本的にはオシレーター、フィルターと各種モジュレーションをつないでいくという流れになり、他のソフトウェアシンセとさほど変わりはありません。ただちょっと設定できるパラメーターが多いのと、モジュレーションが少し複雑という程度の差です。
それがわかってしまえば、その向こうには一生かかっても遊び尽くせないほどの楽しいシンセサイザーライフが待っています。
ということで次からは、それぞれのセクションの使い方を掘り下げていきます。
第二回は「アーキテクチャーの設定」になります。
(※次回につづく)