FMシンセの隆盛と落日……
1983年に登場した「DX7」は、その性能、ルックス、価格、先進性のすべてにおいて、衝撃的なシンセサイザーでした。
きらびやかな出音でアナログシンセから主役の座を奪い、同時期に登場した「MIDI」とともにシンセサイザーのデジタル化と低価格化を、強力に推し進める原動力ともなりました。
しかし、1980年代も後半に入ると、また少し雲行きが変わってきます。
高度な「デジタル化」の促進は、CPUの高速化やメモリーの低価格化をうながします。そうして登場してきたのが、ROMに焼かれたサンプル音を再生する「PCM音源」のシンセサイザーです。
栄枯盛衰、出音のリアルさではPCM音源にかなうはずもなく、また80年代の「使われすぎ」による反動もあり、楽器としての「FM音源」は次第に表舞台からフェードアウトしていきます(が、ケータイやゲーム機の音源としては爆発的に普及していきます!)。
……からの復活!
時は流れ……。
2000年代に入ると、シンセサイザー界では「デジタル」に駆逐されたはずのアナログシンセが息を吹き返します。そればかりか、原初たるモジュラーシンセまでもが一定の市場を形成するに至り、百花繚乱、現世はデジタル・アナログが入り乱れた、さながらシンセサイザー戦国時代の様相を呈し始めました(いや別に争ってはいませんけどね)。
時代はめぐる。
そうこうしてるうちにパテントの切れた「FM音源」も勢いを盛り返し、もともと少ない資源で実装可能な仕様も手伝ってか、ハード・ソフト様々なフォーマットで採用されてきています。
で、ちょっと前置きが長くなりましたが、せっかく流行ってもきているし、FM音源の音作りについて少しまとめみようと思った次第です。
テーマはずばり「FM音源の音づくりって、ほんとに難しいの?」です。
FM音源ってむずかしい?
出音の予測は、たしかにむずかしいかもしれません。
パラメーラも多いし、感覚的に触ろうとしてもどこからいじっていいかもわからない。
とくに初心者には、敷居が少し高いかも。
が、基本的な部分を理解して、ちゃんと目的を持って音作りしようとすれば手も足もでないわけではありません。個人的には一時期4オペ音源を使い倒してた頃もあるので、そのへんの経験も踏まえつつFM音源の音づくりの話を進めてみようかと思います。
アナログシンセサイザーの場合
まず、FM音源がむずかしいと言われる所以に、それまでのアナログシンセとは全くことなる音作りのワークフローがあると思われます。
で、以下がアナログシンセの、もっとも簡単なボイスストラクチャーです(わかりやすいようにかなり簡略化していますが、ほんとはもうちょっと複雑ですよ)。
さて、ここでの青い矢印は、「音」の流れをあらわしてます。
まず「VCO(オシレーター)」が、シンセサイズの元となる「波形」を出力します。
「VCO」から出た波形は、次の段で「VCF(フィルター)」に入ります。ここではフィルターという名前のとおり、設定したパラメータから上(もしくは下)の周波数帯域の音を削っていきます。そのパラメータが「カットオフ」。もうひとつここには重要なパラメータがあって、それが「レゾナンス」。細かな説明は省きますが、いわゆる「みょんみょん」した音づくりには欠かせないパラメータとなります。
そして最後の「VCA(アンプ)」で音量を調整して、最終的な「出音」となるわけです。
しかし、これだけではまだ楽器としての「表現力」に欠けます。
そこで、音に「時間的な変化」をつけ、「表情」を豊かにする役割を担うのが「EG(エンベロープジェネレータ)」です。
なお同じ「EG」でも、変調をかけるモジュールによって効果が異なります(赤い矢印)。
「VCF」を変調する「EG」は、音色に時間的変化をつけます。
「VCA」を変調する「EG」は、音量に時間的変化をつけます。
また、「VCO」を変調してピッチに時間的な変化をつける「ピッチEG」を持っているシンセもあります。
これら「EG」の効果により、「ゆっくり」立ち上がるシンセパッド系の音、だんだん「減衰」していくピアノ系の音、出だしが「しゃくりあげる」ような音色変化をする尺八系の音などが、つくれるわけですね。
FM音源の場合
では次に、FM音源の場合を見てみます。
FM音源の理論についてはすでにいろいろなところで書かれてますので、詳しくはそちらを参照してください(ちなみにWikipediaのはこちら)。
さて、以下はいちばん基本的な、FM音源のボイスアーキテクチャーの図です。
実はFM音源、構造自体はめっちゃシンプルです。
「Operator(オペレーター)」は「正弦波」を発生する発振器です。
上段のオペレーター(モジュレーターと呼びます)も下段のオペレーター(キャリアと呼びます)も構造はまったく同じ。ただし、キャリアからの出力が音なのに対し(青い矢印)、モジュレーターの出力は文字通り、モジュレーションソースとして扱われます(赤い矢印)。
同じオペレーターでも、接続の仕方によって役割が変わってくるわけですね。
で、この「モジュレーター側の正弦波出力でキャリア側の正弦波出力に変調をかけて、音づくりしていく」という仕組みこそが、FM音源の肝となります。
そして、ここでも「EG」が大きな役割を担います。
モジュレーターにかかる「EG」が音色の時間的変化を、キャリアにかかる「EG」が音量の時間的変化を制御します。このへん、アナログシンセの考え方が応用できそうですね。
そう考えれば、FM音源も恐るるに足らず?です。
FM音源の、なにがむずかしい?
そう、なにがFM音源をむずかしくさせているのか。
まず「モジュレーターでキャリアを変調して音をつくる」という、理屈を理解しても実際どんな音になるのかが感覚的にイメージしづらい音源であるということ。このへん、音を「フィルターで削る」「レゾナンスで強調する」という、ある意味想像しやすいアナログシンセとの大きな違いです。
そしてもうひとつが、膨大なパラメータ。
上の例は2オペレーターで説明しています。キャリアとモジュレーターがそれぞれひとつづつです。これならなんとか理解できそうですね。
でも、「DX7」は6オペレーター機。
キャリアとモジュレーターを組み合わた「アルゴリズム」が32種類。「EG」も6基(+ピッチEGが1基)。EGで設定できるパラメータは、L1〜L4(レベル)とR1〜R4(レート)の合計8個……。
ちなみに以下は、「DX7」をエミュレートしたフリープラグイン「dexed」の画面です。
アナログシンセと比べると圧倒的なパラメータ量です。うーん、たしかにこれはヤバいわ。
その分、表現力も半端ないですが。
でも、大丈夫です。
基本の「2オペ」が理解できれば、あとはその応用でなんとかなるでしょう。
ということで、次回は実際にFM音源をさわりつつ、話を進めていこうと思います。
(※次回につづく)