DTM界のソフトウェアサンプラー御三家といえば「HALion」「Kontakt」ときて、最後は「Falcon」になるでしょうか。前二者とくらべると比較的新顔に思えるかもしれませんが、前身の「MachFive」から見れば現行「Falcon 2」はメジャーアップデートにして5代目相当。それなりに歴史のあるソフトウェアだったりしますね。
で、そのアップデートの過程で機能もガンガンと強化されていき、いまではサンプラーを超えた音づくりの万能プラットフォームへと進化しています。
ということで、これから何回かにわけて「Falcon」での音づくりを紹介していきます。
興味はあるけど手を出せないでいる方や「UVI Workstation」からのステップアップを迷っている方など、参考にしていただければ幸いです。
UVI Workstationとの比較
さて、UVI社といえば「サウンドウェア」と呼ばれる高品位なサンプリングライブラリーが主力商品になります。そのラインナップのひとつ「Digital Synsations」は他社のいろいろな商品にもバンドル提供されているので、実は持っているという方も多いのではないでしょうか。
で、その再生プラットフォームとなるのが「UVI Wrokstation」です。いわゆるプレイバックサンプラーで、アカウント登録さえすれば無償で使うことができます。
「サウンドウェア」がすごいのは、単なるサンプリングライブラリには留まらないところ。かなりハイスペックな、VAシンセサイザーに匹敵する強力なエディットパラメーターを備えています。
それでいて「Vintage Vault」シリーズは「ヴァーチャルアナログでは実機の音と魅力は完全に再現はできない」というコンセプトで、過去の銘機を片っ端からコレクションしてサンプリングしまくっているんですから恐れ入ります。
サウンドウェアをFalconで読み込むと…
なお、サウンドウェアは単品購入しても上記のように「UVI Workstation」があるため、「Falcon」がなくてもかなりのレベルで音色エディットが行なえます。
で「Falcon」で同じデータを読み込んでみると、こんな感じ。
左側のカラムで簡単にパートを追加できたり、右側のカラムがデータやサウンドのブラウザになっていたりなど操作系の違いはありますが、基本的に出てくる音はまったく同じです。
で、なにが違うのかというと、タブを[INFO]から[EDIT]に切り替えてみればわかります。
上のキャプチャーはいろいろ開いて見せてますが、こんな感じでサウンドウェアの裏側がどうなっているのかがわかります。ついでにいろいろ魔改造なんかもできちゃったりしますが、そもそもサウンドウェアが大変よくできているので、ちょっとエディットくらいで済ませるのがベターでしょうかね。
ちょっとだけフィルターをいじってみる
たとえばこのプリセットのフィルターは、「XPANDER FILTER」が使われています。Oberheim社「Xpander」のフィルターをモデリングしたものですね。いろいろ使い勝手の良いフィルターです。
で、「サウンドウェア」では4Poleの「LP」「BP」「HP」の切り替えのみが選択できます。
が、「Falcon」の[EDIT]モードでいじるとこんな感じ。
フル機能にアクセスでき、37種類のフィルター特性が選択可能になります。まさに、「Xpander」のフィルターです。
ちなみにサウンドウェアの操作画面は、「Falcon」が持つScript Prosessorの機能を使ってつくられています。使用されているスクリプトはLau言語ですね。あまり聞き覚えのない言語かもしれませんが、強力で実装もコンパクトなため、ゲーム業界ではわりと昔から使われていました(メインの言語ではなく、イベントなどを制御するサブのスクリプトとして)。
UVI WorkstationとFalconのスペック的な違い
さて「Falcon」では、「サウンドウェア」の裏側をいじることができるというのがわかったかと思いますが、そうなると気になってくるのが両者のスペック的な違いです……が、これ、「サウンドウェア」を使ってる分にはぶっちゃけ同じです。
どちらもメモリとCPUパフォーマンスが許すかぎりパート数を増やせるマルチティンバー音源だし、サウンドエンジン自体も共通なため、出音に違いはありません。
そもそも音づくりはしないからプリセットだけで問題ないとか、「サウンドウェア」のコントロールパネルで充分間に合うとかなら、「UVI Workstation」は断然お勧めです。というか「Falconいいよ!」って、あんまりひとに勧められないというか、「サウンドウェア」と「UVI Workstation」の組み合わせがそれだけ完成度高いんですけどね。
では「Falcon」に手を出しちゃっても後悔しないひとはどんな感じかというと……やはり「音いじってるだけでご飯三杯はいける!」系のシンセマニアになるでしょうか。「Falcon」はシンセサイザーとしても、それだけ奥深いポテンシャルを秘めています。
KV331 SynthMasterとの違い
となると、「KV331 Audio SynthMaster」とも比較しておかないといけませんね。
「Falcon」と「SynthMaster」の最大の違いは、コンセプトになるでしょうか。
「SynthMaster」の場合はボイスストラクチャーを見てもわかるとおり、根本にあるのはシンセサイザーです。セミモジュラー形式を採用し、モジュレーションの自由度も高いですが、構造を理解してしまえば枠組みは普段使っているシンセとなんら変わりません。
で、特徴的なのはオシレーター。
オシレーター×2とモジュレーター×4の実質6基のオシレーターを組み合わせて、FM、AMさまざまなルーティングを組めるようになってます。また、それぞれは膨大な波形で構成され、複数のアルゴリズムを持つウェイブシェイパーも装備しています。最近流行りのオシレーターセクションのみで強力な音づくりが行なえる、モダンなシンセサイザーのスタイルですね。
対する「Falcon」ですが、図にするとこんな感じです。
すごくシンプルに見えますが、逆にヤバイです。
「プログラム」は複数の「レイヤー」で構成され、「レイヤー」は複数の「キーグループ」で構成されます。で、「レイヤー」も「キーグループ」も、数に制限はありません。CPUパワーとメモリが許す限りいくらでも重ねられます。
加えて、音を加工するエフェクト(「Falcon」の場合、シンセサイザーのフィルターもこのカテゴリに属します)やモジュレーションも、それぞれの箱の中に無制限に詰め込めます。
で、「サウンドソース」が、いわゆる音ネタです。サンプリング波形を再生するサンプルオシレーターで構成されます。もちろんマルチサンプリングで、キーボードに自由にマッピングできます。また、ノートの発音域を重ねればレイヤーも組めます。つまりオシレーターも重ね放題なわけです。
そして、このサンプルオシレーターの代わりに、いわゆるシンセサイザーのオシレーターも使えるようになっているのが「Falcon」の恐ろしさです。
普通はオシレーターの箱が用意してあって、その中にマルチサンプルの波形をアサインしていくのが、よくあるPCMシンセサイザーの考え方ですよね。
で、「Falcon」の場合、その枠がありません。なんとなく、ヤバさがわかってきたでしょうか。
つまり「Falcon」のシンセサイズの根底にあるのは、「なんでもできる箱を用意したんで、あとは自由に並べてやってくださいね」的な究極のフリーダムさです。加えて「モジュールの数は気にしなくていいよ」のおまけつき。
なお「SynthMaster」がオシレーター部分の掛け合わせが特徴的だったのに対し、「Falcon」の場合は並べたオシレーターをいかに加工していくかに力を入れた、後処理の自由度が高い構造になってます。このへんやはり、サンプラーから発展したプラットフォームだなぁという印象です。
ということで、ちょっと長くなりましたが前振りはここまで。
「Falcon」の構造がなんとなく理解できてきたところで、次回はもうちょっとディープな「音づくり」の部分に入っていきます。実は「Falcon」用意されているモジュールって、種類とマニアックさは「SynthMaster」超えてたりするんですよね。