前回は「SynthMaster」のモジュレーションマトリクスの使い方について解説しました。
「SynthMaster」はモジュレーションマトリクスの自由度も高いですが、用意されているモジュレーションソースの種類も数も豊富です。使い込むほどにいろいろな発見があり、さわっていて楽しいシンセサイザーですね。
それでは、今回は「SynthMaster」に用意されているエンベロープジェネレーター、「ADSR」「MSEG」「2D Env」と、おまけで「Keyscaler」の各モジュールを見ていきます。
「SynthMaster」のエンベロープは、ほんとうに強力です!
ADSRエンベロープ
エンベロープジェネレーターは、シンセサイザーの音色に時間的な変化をつける場合に使用されます。
なかでも「ADSR」エンベロープはアナログシンセでもお馴染みの、アタックタイム、ディケイタイム、サスティンレベル、リリースタイムをパラメーターに持つ、もっともオーソドックスなタイプになります。
動作的にはキーオンでアタックタイムが始動し、キーオフでリリースタイムによる余韻をつけます。
「SynthMaster」には、1レイヤーにつき4基の「ADSR」が用意されています。
で、この「ADSR」は少し変わっていて、それぞれのタイムでスロープの調整が可能です。
タイムとスロープはボリュームノブで調整できますが、ポイントもしくはサークルをマウスで直接つまんで調整することもできます。
ノブにはもちろん、別のソースからのモジュレーションを設定することも可能です。
モジュレーションについては、前回の「モジュレーションマトリクスを使いこなす」をご参照ください。
では、「ADSR」エンベロープのそのほかのパラメーターも見ていきましょう。
Bipoler
「ADSR」のパラメーターの山は、通常「0〜1」の間で設定されます。いわゆるユニポーラーですね。で、「Bipolar」をオンにするとこれを文字通りバイポーラー 、つまり「-1〜1」の変化幅になります。
アタックタイムが「-1」の地点から始まり、センター位置が「0」、ピークで「+1」になります。アイデア次第でいろいろ面白いことができそうです。
ちなみにここに並んでいるボタンの設定は、すべて併用が可能です。
Sync
エンベロープではアタック、ディケイ、リリースのそれぞれにタイムが設定できますが、「Sync」をオンにするとそれらパラメーターがDAWなどのホストのテンポに同期します。つまり「BPM」にあわせたエンベロープの変化がつくれるわけです。
この機能は「Snap」と併用するのが効果的です。
「Sync」をオンにすると、デュレーションを示すラインがディスプレイに表示されます。さらに「Snap」をオンにすることで、パラメーターのポイントがそのラインにスナップするようになります。これでビートに同期するエンベロープが簡単につくれるわけです。EDMでよくある曲調にあわせて強烈に変化するモジュレーションなどに使えますね。
Reset
「Reset」は、ボイスモードが「Mono」のときに有効なパラメーターです。
「Reset」をオンにすると、キーオン毎にエンベロープがリトリガーされます。というより、オフの状態がリトリガーされないというべきでしょうか。つまりオフの状態が、いわゆるレガートです(ちなみにアーキテクチャーで「Legato」を「オン」にすると、このパラメーターは無視されます)。
Analog
「Analog」をオンにすると、エンベロープの挙動がアナログシンセを模したものになります。大きな違いは各エンベロープタイムのスロープの挙動です。
目的にあわせて使い分ければ良いでしょう。
OneShot
「OneShot」をオンにすると、アタック、ディケイ、リリースのそれぞれのタイムで一度だけ稼働するワンショットモードのエンベロープになります。
パーカッション系の音をつくるときなどに有効です。
BitsとDrift
「Bits」はエンベロープの出力時の解像度を指定するパラメーターになります。マニュアル上では、いちおう4bit〜24bitで調整できることになってます(値だけ見ると、なんか16bitのような気も…)。
「Drift」は、出力レベルにランダム値をかけます。アナログ的なちょっとした揺らぎを演出するのに使えます。
「Bite」と「Drift」の各パラメーターは、他のエンベロープにも装備されています。
アタックレベルの設定
目に見えるパラメーターノブにはありませんが、実は「SynthMaster」の「ADSR」エンベロープでは、アタックレベルの設定も可能です。アタックタイムのポイントをマウスでつかんで上下に動かしてください。
ポイントを直接操作することによって、アタックタイムと同時にレベルも調整できるわけですね。
MSEG
「MSEG」は、マルチステージエンベロープです。最大で16ステージのエンベロープが組めます。また、「ADSR」エンベロープと同様に「Sync」と「Snap」で、テンポに同期したエンベロープを設定できます。
ステージは最大16。各ステージにはタイムとレベル、スロープを設定できます(パラメーター設定はマウスでポイントをつかんでおこないます)。
なお「Loops」を「Inf」にするとキーを押している間はループが持続する、通常使いのエンベロープになります。
2D Env
ボタンの並び順では最後になりますが、先に「2D Env」について説明しておきましょう。
「SynthMaster」では、「2D1」と「「2D2」の二系統の「2D Env」が用意されています(メニューでは4つあるように見えますが、「X」と「Y」は同じ内容です)。
基本的なパラメーター構成は「MSEG」とよく似ていますが、大きな違いは「X」と「Y」の二系統のレベル出力を持っていることです。「XYパッド」を思い浮かべるのがいちばん理解しやすいでしょう。あの指での操作を、マルチステージ・エンベロープジェネレーターを使って再現できるわけです。
フィルターやLFOモジュレーションの制御、ベクターオシレーターの波形のコントロールなどが一般的ですが、エフェクトの制御でも大いに活用できそうです。
なお「Loops」は「MSEG」と同じく最大32個ですが、「Stages」は最大32個に拡張されています。
KeyScaler
最後におまけで「Keyscaler」です。
「Keyscaler」は、音程(MIDIノートナンバー)を基準に、パラメーター値を調整するモジュレーターです。「SynthMaster」には、4個の「Keyscaler」が用意されています。
たとえば「ピアノの音」を想像してみましょう。
ピアノの高音は減衰の早い音、逆に低音は減衰の長い音になりますね。これを再現しようとすると、高音はエンベロープのディケイタイムを短く、低音は長くする必要があります。ここで「Keyscaler」の登場です。右肩下がりの「Keyscaler」をつくって、エンベロープのディケイタイムをモジュレーションすればよいわけですね。これで、ノートナンバーが高いほど短いタイムになります。
なお、ポイントは最大16個まで設定できます。
「Keyscaler」は高音と低音での音量の差や、フィルターの開閉具合の調整など、細かな音色のつくり込みに役立ちます。また、FMシンセシスには必須のパラメーターになりますね。
とりあえずモジュレーションソースの前編、エンベロープジェネレータについては以上です。ざっと見ただけでも様々な使いこなしが可能そうですね。しかも今回は触れていませんが、実はレイヤー2側のモジュレーションソースで、レイヤー1側のモジュールを変調することも可能だったりします。つまり「ADSR」だけでも、8基の同時使用が可能なわけです。もう、音づくりの可能性はどこまでも広がります。
恐るべし「SynthMaster」……。
さて、次回はモジュレーションソースの後編です。さらに奥深い「LFO」について見ていこうと思います。
(※次回に続く)