今年は新型コロナに振り回されっぱなしの一年でした。個人的にもちょっとした苦労はありましたが、商用ソフトウェアを無償で提供してくれるシンセメーカーなどもあり、それはそれで少しうれしかった部分もあります。
で、ヴィンテージアナログのエミュレーションで最近なにかと話題のCherry Audio社からも、同社の看板商品「Voltage Modular」のスターターセット「 Nucleus」が無償提供となりました(通常価格$29)。
コロナ禍もまだまだ出口が見えない状況もあり、同商品の$0提供は現在もつづいています。
さて、その「Voltage Modular」についてです。
これ、シンセサイザーとしても優秀ですが、モジュラーシンセの入門用と考えても、その「楽しさ」を充分に味わえるステキなソフトウェアになってます。いきなりハードウェアでは敷居も高そうなモジュラーシンセですが、無料のソフトウェアなら心配もいりません。
興味のある方は、ここから始めてみるのはいかがでしょうか。
まずはダウンロードから
ではまず、無償の「Voltage Modular Nucleus」をダウンロードしましょう。
同社のサイトにアクセスして、サイトメニューから「Products」を選択し、表示される一覧から「Voltage Modular」のバナー をクリックしてください。
つぎに、定価$29が消されて$0となっている「Voltage Modular Nucleus」の「Get For Free」をクリックしましょう(なお、いきなり「Core」から買っちゃうのもありですが、実は「Nucleus」を持っていれば差額で購入可能だったりします)。
で、移行したページの下の方にある「Enter your email here」にメアドを入力して、「Send Redemption Code」をクリックしてください。
あとは送られてくるメールに従って、ダウンロードしたソフトをインストールすればOKです。ちなみにこのメアドが「Cherry Audio Store」のアカウントになります。
Voltage Modularを使ってみる
では、「Voltage Modular」を起動してみましょう。以下はプラグインとして立ち上げた状態です。
空のラックが表示されますね。ワクワクします。ここからプリセットを読み込んでもよいですが、今回は「Voltage Modular Nucleus」でなにができるのかを確認するため、いちからパッチを組んでみます。
つくるのは1VCOのモノシンセです。
まずはモジュール選び
それでは、必要なモジュールをピックアップして、ラックに並べましょう。
メニューボタンから[Modules]を選択し、使いたいモジュールをラックの好きな位置にドラッグアンドドロップしていきます([Add]ボタン、もしくはダブルクリック、ラック上で右クリックで表示されるメニューからも追加できます)。
オシレーター、フィルター、アンプは必須ですね。ついでにノイズジェレネーターも加えましょう。あとはモジュレーションソースとしてLFOと、エンベロープジェネレーターを用意します。
ざっくり並べると、こんな感じ。
左から「Mini LFO」「Noise Generator」「Oscillator」「Filter」「Amplifier」「Envelope Generator」となり、「1VCO-1VCF-1VCA」の基本セットの完成です。
これでソフトウェア的に音は出せますが、実際のユーロラックではまだいくつか必要になるモジュールがあります。それらを加えると、だいたいこうなります。
「Multiple」を2基に「Six-Input Mixer」、あとは波形確認用に「Oscilloscope」も追加しました。実機では軽く10万円越えなセットですね。それっぽくなってきました。
MIDI信号の確認
作業に入る前に、MIDI信号も確認しておきます。プラグインの場合はDAWから「Voltage Modular」にMIDIをアサイン、スタンドアローンの場合はマスターキーボードをUSBに接続してください。
で、鍵盤を弾いて以下のランプが点滅すれば、ルーティングは問題ありません。
もちろん、この段階で音は出なくて大丈夫です。
VCO-VCF-VCAをパッチングする
では、パッチングしていきましょう。
オシレーターを接続
まずは、オシレーターから。
今回は単純な1VCOシンセなので、音色のバリエーションを確保するためにノコギリ波、パルス波、三角波、それらにノイズをミックスできる仕様にします。
パッチングは、接続したいジャックからジャックへ、マウスをドラッグすればOKです。
では、使用するすべての波形を「OSCILLATOR」から「6-INPUT MIXER」に接続します。
これで、ボリュームノブで波形をミックスできるオシレーターができました。
ラベルを貼る
「Voltage Modular」には、メモを書いたラベルをパネルに貼りつける機能もあります。
パネル上の、ラベルを貼りたいところで右クリックしてください。表示されたメニューから「Add Label」を選択すれば、その位置にラベルが出現します(ラベル位置は、あとから調整もできます)。
ラベルには、任意のテキストを入力することができます。
また貼りつけたラベルは、右クリックのメニューで色を変えることもできます。で、ミキサーのノブそれぞれにメモを残しておけば……
こんな感じで視認性もよくなりますね。
フィルターとアンプを接続する
つぎは、フィルターとアンプです。
まず、ミキサーの「MASTER」アウトプットを、「FILTER」の「AUDIO IN」に接続します。さらにローパスフィルターのアウトを、「AMPLIFIER」の「INPUT」に接続します。
最後に、「AMPLIFIER」の「OUTPUT」を「MAIN OUTS」の「1L (M)」に接続すれば、音の通り道は完成します。が、せっかくなので、オシロスコープにも波形を表示するようにしてみましょう。
こういうときに出番となるのがマルチプルモジュールです。
マルチプルモジュールを使う
マルチプルはその名の通り、信号を複数に分岐するモジュールです。CV信号を分岐すれば、同一の信号で複数のモジュールを制御できるようになります。オーディオ信号を分岐すれば、ひとつの音に対して異なる音処理をおこなうことができます。
では、やってみましょう。
「AMPLIFIER」の「OUTPUT」を「MULTI」の「INPUT」に接続します。これで同一の信号が6個取り出せるようになりました。ひとつを「MAIN OUTS」の「1L (M)」に、もうひとつを「OSCILLOSCOPE」の「INPUT A」に接続します。
ここで、「AMPLIFIER」の「GAIN」ノブを少しだけ上げてみましょう。
オシロスコープに波形が表示され、ホストのDAWにオシレーターの音が出力されているのが確認できるかと思います(もし音が出なかったら、最初からパッチングをやり直してください)。
ここまでで最初のステップ、「音が鳴る」ところまで来ました。
しかしまだ、音が鳴りっぱなしのただの機械にすぎません。ここから各モジュールをCV /GATE信号で制御できるようにして、楽器として組み上げていきます。
CVとGATE
キーボードを弾いたときのMIDIイベントには、弾いた鍵盤のノート情報(ピッチ)と、鍵盤を押した/離した瞬間のトリガー情報(ゲート)が含まれます。アナログモジュラーシンセでは、ノート情報はCV(Control Voltage)信号で、トリガー情報はGATE信号として、やりとりされます。
「Voltage Modulあr」では、CV信号とGATE信号は「CV SOURCES」セクションから取り出せます。
これらの信号で各モジュールを制御すれば、キーボードで弾くことができるシンセサイザーが完成しますね。では、実際にやってみましょう。
複数ケーブルのパッチング
ピッチを制御するCV信号は、オシレーターとフィルターの2つのモジュールに入力する必要があります。ということで、ここで再びマルチプルモジュールの出番です。
で、本当はマルチプルを使わない方法もあります。
たいていのソフトウェアモジュラーがそうですが、「Voltage Modular」でもひとつのジャックに対して複数のケーブルをパッチング可能です。
パネルのジャック部分をクリックしてください。入力/出力とも以下のようにジャックが展開され、6本のケーブルを接続することができるようになります。
当然、リアル世界では無理な芸当なので、今回は現実のモジュラーシンセにならって、マルチプルを使って進めます。あとあと、つなぎ換える際にわかりやすいという利点もありますしね。
PITCHとGATEを接続する
まずはピッチを制御するCVを、マルチプルを介してオシレーターとフィルターに接続します。
「CV SOURCES」の「PITCH」からケーブルを引っ張り、「MULTIPLE」の「INPUT」につないでください。そこから「OSCILLATOR」の「PITCH CV」と「FILTER」の「1V/OCT」に、信号を分配します。
次は、GATE信号です。GATEは、エンベロープ ジェネレーターを制御します。
エンベロープジェネレーターの出力でアンプのゲインを制御すれば、音量をコントロールすることができます。フィルターのカットオフを制御すれば、音色に時間的な変化をつけられます。
今回はエンベロープ はひとつしか使いませんが、マルチプルも余ってるので拡張を見越してCVと同様に処理しておきます。接続先は「ENVELOPE GENERATOR」の「GATE IN」です。
ついでにマルチプルモジュールにラベルを貼って完成です。
エンベロープジェネレーターを接続する
では、エンベロープ ジェネレーターの出力をフィルターとアンプに接続します。こちらもマルチプルを使って、信号を分配しましょう。接続先は「AMPLIFIER」の「CV AMOUNT」と、「FILTER」の「FREQ MOD 1」です。
ここで、アンプの「RESPONSE」が「LIN(リニア)」になっていることに注目してください。この状態で「GAIN」を0、「CV AMOUNT」がマックスになっていれば、エンベロープジェネレーターのモジュレーションに対してリニアに反応するアンプの挙動になります(サスティンレベルの値が直線的に、そのままアンプの出力レベルになります)。
ちなみにフィルターモジュールにある「MOD TYPE」も、同様の働きをします。こちらは「EXP(エクスポネンシャル)」のままでOKです。
音を出してみる
では、接続しているマスターキーボードを弾いてみましょう。シンセサイザーとして演奏できるようになっているはずです。ミキサーを操作して「Saw」のみを出力するようにすれば、オシロスコープにキレイなノコギリ波が表示されます。
以上で、基本的な接続は完了です。
LFOでモジュレーション
最後に、LFOでモジュレーションを設定してみます。
まずは、オシレーターから。
「MINI LFO」からの出力を「OSCILLATOR」の「FREQ MOD」に入力してください。ボリュームノブを上げていくと、音程が揺れ始めます。ビブラートですね。今度は、接続先を「PW MOD」にします。こちらはパルスワイズモジュレーションになります。
LFOはもう1基あります。こちらはフィルターにつないでみましょう。
「FREQ MOD 2」が空いているので、そこに接続します。ボリュームノブを上げると、音色が揺れ始めますね。いわゆる「ワウワウ」効果です。
「FREQ MOD」は、フィルターの「CUTOFF」をモジュレーションしますが、その下の「RES MOD」は、「RESONANCE」パラメーターをモジュレーションします。また、モジュレーションはLFO以外の信号、たとえばノイズなんかをソースにしても構いません。このへんはモジュラーシンセの楽しさですね。
とりあえず完成!
さて、以上で「1VCA-1VF-1VCA」のシンセサイザーが完成です。
なんだか見た目もそれっぽくなりました。いろいろパラメーターをいじって、遊んでみましょう。これだけ楽しめる「Voltage Modular Nucleus」が$0ですから、Cherry Audio社もなかなかやってくれます。
……ですが、実は本当に楽しくなるのはここからです!
ということで、次回は後編。もうちょっとつづきます。
(※次回に続く)