Cherry Audio社がARP 2500をリクリエイトしたソフトウェアモジュール「VM 2500 Collection」をリリースしました。最近はスタンドアローン版ソフトシンセが多かったCherry Audio社ですが、今回はもちろんVoltage Modular用、大量21モジュールをセットで投入となりました。
2500はARP社が世に送り出した最初のシンセサイザーです。当時先行していたMoogモジュラーのチューニングが不安定だったのに対し、より安定度の高いオシレーターを研究開発し、商品化に成功しました。
そしてもうひとつの特徴が、モジュラーケーブルを廃したマトリクスパッチングシステム。モジュール間の結線はケース上下に配置されたマトリクススイッチ群を介しておこなわれます。その見た目はレトロフューチャーで超クール! まだ若かりしころの映画界の重鎮・スピルバーグ監督の「未知との遭遇」で、宇宙人とのコンタクトシーンに採用されたのも納得です。
映画自体はまだ監督がまだ「巨匠」と認識される前の作品で、動画でもJJが語っているとおり「ストーリーの展開はわりとメチャクチャだ」……なんですが、ある意味どこにでもいるダメ親父がUFOを追いかけていくだけの話で、なんでこんなに面白いんだろうという驚きに満ちた作品でもあります。ラストに関しても監督自身どこかで「若気の至り」的に語っていたような記憶がありますが、いやいや、やっぱり若い頃の感性の方がぶっ飛んでるよなぁと思わされたり……と語り出すと止まらないので本題に戻ります。
ARP 2500モジュールといえば、つい最近でもBehringer社がクローンモデル「2500 Module」シリーズをリリースしています。こちらはユーロラック規格で普通にパッチングできるモジュールとしての復刻でした。
さてVoltage Modular版はというと同じく、マトリクスパッチングを普通のケーブルパッチングに置き換えての登場。なんだかBehringer版のソフトウェア化という雰囲気がしないでもありませんが、他のモジュールとの共存を考えれば当然かな、というところでしょうか。
なおモジュール数が21というのは、実はオリジナルよりも多いです。市販されなかったモジュールや、存在しないミキサーモジュールなんかも含めてモデリングされているようで、ある意味Behringer版シリーズより強力かもしれませんね。
それでは、代表的なモジュールを簡単に見ていきます。
オシレーターモジュール
オシレータは、ベーシックなシングルタイプが3つと、デュアルタイプが1つ。
左から1040T、1040P、1040R、1023。サウンドジェネレーター部分はぶっちゃけどれも同じです。
TとRは波形選択がスイッチングなのに対し、Pはボリュームタイプでミックが可能。またRが正相のみなのに対し、TとPは逆相も取り出せるようになってるなど「用途によって使い分けてね」な感覚です。確かに音響研究室なんかには好まれそうなラインナップですよね。
なお、2500にはLFOモジュールは存在しませんが、オシレーターモジュールのレンジを「LOW」に切り替えてモジュレーション専用に使うことができます。デュアルタイプの1023は、2VCOとして使うもよし、1VOC-1LFOとしてもよし、といった感じでしょうか。
フィルターモジュール
フィルターはふたつ。どちらも、12db/octのステートバリアブル・フィルターになります。
実はVM2500は、Voltabe Modularにモジュールを提供しているMRBとのコラボで開発されています。MRBはオーバーハイムのフィルターをモデリングしたモジュールなんかも発売しているので、SVFはお手のモノでしょう。
1006は、フィルターにVCAが一体化されたモジュールです。これにデュアルオシレーターとエンベロープを加えれば、3モジュールで基本的なボイスセットが組めますね。オーディオ入力も3系統のミックスが可能と、多機能設計で使い勝手がよさ気です。
もうひとつの1047は、マルチモードフィルター/レゾネーターです。
VCAが省略されている分、ハイパス/ローパス/ノッチ/バンドパスと多機能で、1006よりも細かな音のつくり込みが可能です。モジュレーション入力もひとつ多く用意されています。こちらもオーディオ入力は3系統。
エンベロープとアンプ
エンベロープジェネレーターは1003、1033、1046の3種類。
1003と1033はどちらもデュアル構成で、オーソドックスなADSR形式です。1033には、1003にはないアタックタイムのディレイがついています。1046はちょうど両方を合わせた感じのクアッド構成になります。
1042はVCAモジュールで、オリジナルでは計画はされていたけれどリリースされなかった幻のモジュールです。
たしかに2500のモジュール構成を見ているとVCAはそんなに重要ではないかな、とか思っちゃいますが、そこはソフトウェアならではのひと工夫。追加されたDriveノブは「本物のビンテージARPサウンド」のテイストを加味するとのことで、これはこれで普通にVCAモジュールとして面白いです。1モジュールで3個構成なのもお得な感じ。
1051はオリジナルには存在しない、VM2500独自のミキサーモジュール。オリジナルの2500はマトリクスパッチングのおかげでミキサーの出番はあまりなさそうですが、VM2500はあった方がいいだろうとのことで追加されたとのこと。4ch×2、もしくは8chミキサーとして使えます。また、チャンネル毎の出力(アッテネーターとして使える)を持っていたりなど、たしかに2500っぽいつくりになってます。
CVプロセッサーとシーケンサー
CVプロセッサーとシーケンサーは、どちらもARPっぽい見た目が特徴の2500を代表するモジュールですね。
1005は、リングモジュレーターになります。フィルターモジュール同様、こちらもVCAモジュールが一体化されていて、よくあるリングモジュレーターモジュールよりも機能は豊富です。
1036はサンプル&ホールド。パネルに描かれたシグナルパスにある「INT RAMDOM SIG」を見てもわかるように、内部ソースにノイズ(White Noise)を持ってます。また、それぞれに独立したCLOCKジェネレーターを持つなど、完全なデュアル構成です。
1027はちょっとめずらしい10ステップのシーケンサー。3レーンのCVと、ステップ毎に独立したゲートが取り出せるのが特徴です。ちなみに「POS GATES」の9から取り出したゲートを自身のRESETに突っ込めば9ステップ目でリセット、つまり普通に8ステップシーケンサーとして使えます。この状態で1、5ステップ目から取り出したゲートを使って4つ打ちビートなんかも簡単につくれます。
これ、ケーブルだとパッチングになります。が、実物だとマトリクス部分を使って、スイッチのオン/オフでリズムがつくれる仕様だったんだなと想像できます。よく考えられてますよね。
1026は一見デュアル8ステップのシーケンサーっぽいですが、内部クロックを持たないCVのプリセットバンクです。外部トリガーもしくはステップ毎に用意されたスイッチを押せば、設定されたCVが出力されます。うーん、いろいろできそうな予感がしますが、個人的にはまだ使いこなせておらず。
1050は、これまた2500といえばこれ!的な特徴的なボタンが目をひく見た目のシーケンサー。ボタンスイッチの切り替えで8ステップ×1、もしくは4ステップ×2として使えます。あと、各ステップのボタンをオンにすることでCVミキサーとしても使えるようになってます。面白い機能ですが、こちらもまだ使いこなせてはおらず。こういうの効果的に使ったプリセットとかついてると勉強になって良かったんですが…。
シンセボイス
最後に紹介するのは1045。1VCO-1VCF-1VCAの、お得感いっぱいのモジュールです。
エンベロープもふたつ持っていて内部結線済みなので、これだけで完結したシンセボイスとして使えます。Doepfer社のDark Energyモジュールに近い感じですね。
手軽に2500のサウンドを楽しむには持ってこいだし、オシレーターモジュールを組み合わせれば、強力なモジュレーターを装備した省スペースシンセのできあがりです。ちょっとしたテストにもすぐに音が出せるので出番は多そうです。
さて…
VM2500の各モジュールを簡単に紹介してみましたが、素直な感想として、モジュール構成が個性的で実験要素が強くて楽しいシンセだなぁと思います。見た目のカラフルさも新鮮だし、Voltage Modularの拡張セットとしても魅力的。$0提供のベーシックなVoltage Modular Nucleusと組み合わせても実用的で、末長く楽しめそうでお勧めです。
定価$69のところイントロプライスで$49です。例によってCherry Audio Storeのアカウントを持っていれば、7日間のトライアル版ですぐに試せます。Behringerのユーロラック版を買おうと思ってるひとも、先にこちらで使い勝手を試してみるのも良いかもしれませんね。