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KV331 SynthMaster の音づくり(3)さまざまなオシレーター

KV331 SynthMaster SH-101のノコギリ波

「SynthMaster」のオシレーターには、多彩で強力なさまざまな機能が搭載されています。他のソフトシンセではあまり見られないパラメーターなどもあり、ここだけでもかなり追い込んだ音づくりが可能です。

今回は「SynthMaster」に用意されている5つのオシレーターモード、「Basic」「Additive」「Wavetable」「Vector」「Audio-In」の使い方を、ひとつづつ見ていきます。

オシレーターモードの切り替え

その前に、前回のおさらいです。

それでは、いきましょう。

Basicオシレーター

Basic」オシレーターはその名前のとおり、「SynthMaster」の基本となるベーシックな機能を持ったオシレーターです。あとで説明する「Additive」「Wavetable」「Vector」の各オシレーターやモジュレーターも、この「Basic」オシレーターをベースにできています。

ルーティングの設定

FM Src:]と[AM Src:]は、モジュレーターのルーティングの設定です。アーキテクチャーの設定でもおこなえますが、オシレーターのエリアからも操作できるようになっています。

以下のように対応しています。

ボイスアーキテクチャー設定

Pitch Keytracking

Pitch Keytracking」は、MIDIノートに対するオシレーターの実際の発音ピッチを調整できます(「Base Note」の設定値をルートにして「Amount」で変化幅を調整します)。

ピッチトラッキング設定

デフォルトの設定(「Amount」値が「1」)で、キーボードのキーにピッチが正常に追従する、普通に演奏できるオシレーターになります。で、「Amount」値を「−1」にする(逆側に振り切る)と、実際のキーボードの演奏に対してピッチの変化が反転します。つまり、この状態で演奏すると、キーボードの高音側が低いピッチ低音側が高いピッチになります。

ピッチトラッキングのアマウント値を−1に設定する

つまりこの機能で、ジョー・ザヴィヌルが演奏していたリバース・キーボードがつくれるわけです!

最初は戸惑いますが、慣れてくるとそれなりに弾けるようになる(とくに左手)ので、人間ってすごいなぁと思います。逆の運指になるので、普段の手クセとは違う、予想もしないフレーズがつくれるかもしれません。

なお、「Amount」をセンター位置(値「0」)にすると、オシレーターのピッチが固定されます。

オシレーターピッチを固定する

プロフェット5で例えるなら「KBD」ボタンをオフにした状態です。DXシリーズでもオペレータのフィックスモードがありますね。

Prophet 5のオシレーターでのピッチ固定の例

パーカッション系の音をつくる場合や、オシレーターをモジュレーションソースに使う場合など、オシレーターの音程を変化させたくない場合に有効な機能です。

Pitch Drift

「Pitch Drift」は、オシレーターに内包されたランダムLFOで、ピッチに揺れをつくります。
Speed」がLFOスピード、「Amount」がピッチへのアマウント量の調整です。

ピッチドリフトの設定

ここを使っても「VLFO」「SLFO」は消費しません。あくまでオシレーターの内部パラメーターになります。

波形メニュー

「用意されている波形からひとつを選んで発音」するという機能だけ見れば、Basicオシレーターは確かにベーシックではあります。が、その波形だけでも実はすごいことになってます。

波形の選択
Basicオシレーターの操作画面

選べる波形には、基本的な「Sine」「Triangle」「Square」「Sawtooth」「Pulse」「Noise」に加えて、「Single Cycle Waveforms(オールドシンセからサンプリングされたシングルサイクル波形)」「Samples & Multisamples(.sfzフォーマットで定義された.aiff/.wav波形)」があります。

実際に開いてみるとわかりますが、選択形メニューには目を疑うレベルでメーカーと波形が並びます。

波形の選択メニュー

特定のシンセをエミュレートしたい場合など、こだわりのサウンドがつくれます。にしても、音をチェックするだけでも相当な分量です。

シングルサイクル波形の追加

さらにユーザーが新規に、波形を追加することもできます。

シングルサイクル波形は、

 <ユーザー書類>/SynthMaster/Waveforms/

に置いてください。「SynthMaster」が自動的に認識してメニューに登録してくれます。

なお、サンプルのルートキーは通常.wavデータ内のヘッダに埋め込まれてます(波形編集ソフトなどで設定する)が、設定されていない場合は「<波形名>.<ルートキー>.wav」のように、ファイル名に埋め込むこともできます。

シングルサイクル波形は、マルチサンプルにも対応しています。

マルチサンプルされたシングルサイクル波形の追加

ファクトリーデータを見ればわかるように、マルチの場合でも「<波形名>.<ルートキー>.wav」の形式でファイルを作成すれば、<波形名>の部分のみをメニューに表示してくれます。

ちなみにファイル名に.autoを埋め込むと、ループのスタート/エンドをゼロクロッシングポイントで自動設定してくれます(が、データがちゃんとシングル波形になっていれば.autoはいりません)。

シングルサイクル波形もネットでいろいろ手に入るので、追加しておけばシンセサイズの幅が広がります。
たとえば、こんな感じ。

シングルサイクル波形の選択

楽しいですね。
ファイル名できれいにソートしてくれないのは、ちょっと困りますが。

サンプル波形の追加

サンプル波形やマルチサンプル波形は、

 <ユーザー書類>/SynthMaster/Samples/

に、.sfzフォーマットのデータ一式を置くことで認識されます。

もしくは、「<波形名>.<ルートキー>.wav」のマルチサンプルデータをドラッグアンドドロップで、自動的に.sfzファイルを作成してくれます。

マルチサンプルの取り込み
マルチサンプルファイルをドラッグアンドドロップするとSFZファイルが生成される

.sfzフォーマットとサンプルライブラリの入手方法については、こちらにも少し書いてあります。

で、こんなことができます。

マルチサンプル波形のメニュー選択

コンバートしたサンプル波形には、たいていルートキーが設定されているので(もちろん.sfzにも)、あまり細かなことは気にせず使うことができます。

アルゴリズム

ちょっと変わったパラメーターに、「アルゴリズム」があります。
これは基本波形シングルサイクル波形に効果を発揮するウェーブシェイパーで、操作画面の[Algo]から選択します。

オシレーターのアルゴリズム設定

アルゴリズムはなんと17種類も用意されていて、各アルゴリズムにつき2つのパラメーターがユーザーに開放されています。ここだけでもかなりなレベルで音の作り込みがおこなえます。

なかでも「Sync」系は強力で、単体でオシレーターシンクサウンドをつくることができます。

アルゴリズム:Syncパラメーター

また、「Other」には「Pulse1」「Pulse2」があります。
このふたつはPWMを実現するアルゴリズムで、基本波形はもちろんシングルサイクル波形にも適用されます。

アルゴリズム:PWパラメーター

シングルサイクル波形はサンプリングなので「固定された波形」なはずですが、ここにLFOなんかでモジュレーションマトリクスをかけて、波形そのものをグリグリ動かすことが可能です。

エイリアスノイズも抑えられてるし、デジタルなのに(逆にデジタルって)スゲーって感じです。

Voices

Voices]を設定すると、同一設定のオシレーターを最大16個まで重ねた音をつくることができます。

オシレーター:ボイスのユニゾン

たとえば、オシレーター波形をノコギリ波にして8ボイスを重ねれば、いわゆるスーパーソウっぽいサウンドになります。「Unison」と違い、オシレーターのインスタンスを増やすだけなので、CPUリソース的にも優しい機能です。

このときに、各オシレーターインスタンスの設定値の広がり(ばらつき)を出すのが、[Voices]のパラメーター群になります。

オシレーター:ユニゾン時の「Voices」パラメーター

デチューンやステレオ感はもちろん、オシレーター間の位相のズレなども設定できます。

また、[Free]ボタンをオンにすると、発音時にオシレーター波形の位相のスタートポイントがランダムになります。

オシレーターのFreeモード

これは、アナログシンセで発音毎に波形の周期がリセットされない(いわゆる「フリーランニング」)状態と、同じような効果をつくりだします。アナログっぽさの演出に加えて、スーパーソウサウンドにも有効です。

モジュレーター

モジュレーターは、オシレーター専用のモジュレーションソースですが、中身はBasicオシレーターがベースになってます。操作画面を見ても分かる通り、パラメーターもほとんど共通です。

ベーシックオシレーターの画面

もちろん、シングルサイクル波形もマルチサンプル波形も使える上に、アルゴリズムも適用できます。

で、モジュレーションソースとしても強力ですが、先にも説明したとおり純粋にオシレーターとしても使用可能です。やり方は以下の記事の「オシレーターのルーティング」を参照してください。

Additiveオシレーター

Additive」オシレーターは、名前だけ見ると正弦波合成のオシレーターに思えますね。見た目もそんな感じです。

でも内部的には、Basicオシレーターを8基並べた構造をしています。
ということで各オシレーターがやれることも、Basicオシレーターとほぼ同じです。

Additiveオシレーターの画面

なお、図中のパラメーターセレクトの部分をクリックすると、アルゴリズム関連のパラメーターにもアクセスできます。

これ、すごく面白いオシレーターなので、次回に詳しく解説します。

Wavetableオシレーター

Basecオシレーターの波形を流行りのウェーブテーブルにしたのが「Wavetable」オシレーターです。

Wavetableオシレーターの画面

Indexパラメーター

Basicオシレーターのパラメーターに加えて、「Index」が追加されています。

indexパラメーターの画面

これが、ウェーブテーブル波形の読み出しインデックスになります。ここをLFOやエンベロープでモジュレーションすることで、波形がうにうに動く、おなじみウェーブテーブルシンセのサウンドになります。

ウェーブテーブルの選択と追加

プリセットされているウェーブテーブルは、波形ディスプレイを左クリックすることで選択が可能です。

ウェーブテーブルの選択

また、ユーザーが独自にウェーブテーブルをつくることも可能です。

ウェーブテーブルの各スロットを右クリックすれば、Basicオシレーターと同じ、シングルサイクル波形が選択できます。

ウェーブテーブルのテーブルに波形をアサイン
シングルサイクル波形の選択

アルゴリズム

Wavetableオシレーターにはアルゴリズムも適用可能で、ウェーブテーブル内の波形すべてに一括でかかります。

で、面白いのが「Other」にある「Bit Crush」。目に見えて波形がカクカクになります。

「Bit Crush」の設定画面

これを使えば、Loビットなウェーブテーブルシンセのエミュレーションも可能です。チップチューンなサウンドにも使えます。

Vectorオシレーター

ヴェクターシンセシスは、SCI社の「プロフェットVS」に搭載されていた音源方式です。波形モーフィングを二軸にした構造で、4つの波形のミックス比を時間制御することにより、独特な音色変化が得られます。

「SynthMaster」ではBasicオシレーターを4基使って、この音源を実現しています。マルチサンプリング波形のアサインも可能です。

Vectorオシレーターの設定画面

ちなみにヴェクターシンセサイザーにはKorg社の「WAVESTATION」やYamaha社の「SY33/55」などもあり、それぞれ元SCI社のスタッフが開発にたずさわっています。ついでに「WAVESTATION」は、プロフェットVSの波形データも内蔵しています(「VS」からWAVESTATIONの「WS」ってネーミングは偶然なんだろうか)。

2Dモードと1Dモード

「SynthMaster」のヴェクターオシレーターには「2D」と「1D」の、ふたつのモードがあります(切り替えはボタン式)。よく見ると、それぞれ波形が置かれている座標が異なりますね。

2Dモードと1Dモードの違い

「2D」モードの波形は四隅に置かれます。
インデックスをセンターに置くと、4音が均等なバランスで発音されます。また、それぞれの角いっぱいにインデックスを寄せることで、波形単体の音が出せます。
こちらが「SynthMaster」のデフォルトモードになってます。

「1D」モードの波形の配置は、それぞれの軸のセンター位置です。
「プロフェットVS」や「WAVESTATION」などの、クラッシックなヴェクターシンセのスティック操作に相当します。出力される音はかならず、2音以上のミックスになります。

XYインデックスの操作

「Vector」オシレーターでは、「X Index」および「Y Index」を操作することで、波形のミックスバランスを動かすことができます。
ここにモジュレーションソースをアサインすれば、時間軸による音色変化がつくれます。

ベクターオシレーターのXYインデックスの操作画面

XYの二軸があるので、2Dエンベロープの「X」「Y」それぞれの出力をアサインすれば、「プロフェットVS」のようなキーボードを押してる間に表情が変わっていく音色がつくれます。「SynthMaster」の2Dエンベロープはループも組めるし、設定できるポイント数も「プロフェットVS」よりだんぜん多いです。

2軸の出漁を持つ2Dエンベロープ はベクターシンセシスには特に有効
2軸の出力を持つ2Dエンベロープ はベクターシンセシスには特に有効

もちろん「XYパッド」をアサインして、実際に指で操作してウネウネ動かしてもよいでしょう。

Audio-Inオシレーター

「Audio-In」オシレーターを使えば、外部入力を「SynthMaster」に取り込むことができます(DAWなどのミキサーを使ってサウンドを「SynthMaster」のインプットに結線しておく必要があります)。

Audio-Inオシレーターの操作画面

この機能により、外部サウンドに対して「SynthMaster」の各種モジュールを使ったシンセサイズが可能になります。また、入力されたサウンドで、内部モジュールをトリガーすることが可能です。

これらを組み合わせ、ボコーダーサウンドをつくることもできます。これも機会があれば、別途解説します。


さて、今回は「SynthMaster」のオシレーターを紹介しましたが、「Basic」オシレーターだけでも結構な分量になってしまいました。

で、まだまだ説明しきれないところも沢山あるので、次回は応用編です。

「Additive」オシレーターを使ってみます。

(※次回につづく)

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