今回は「SynthMaster」を使って、Roland社の「SH-101」(っぽい)オシレーターをつくってみます。このオシレーターを再現するのに最適なのが、「Additive」オシレーターだったりしますね。
ということで、前回よりもちょっと詳しく「Additive」オシレーターの使い方を掘り下げてみましょう。
その前に……
SH-101について
「SH-101」は、1982年に発売されたモノフォニックシンセサイザーです。
ショルダーキーボードとしての機能も大きくフィーチャーされつつ、シンセサイザー入門機としてもほど良い性能を備える「SHシリーズの末っ子」としてデビューしました。兄貴分のSHシリーズが強面の黒い金属筐体だったこともあり、グレーですっきりデザインのこちらは現代っ子っぽい優等生な雰囲気です。
ちなみに同期にはYAMAHA社の「CS-01」君がいます(ちっこくて不器用なくせに結構ぶっとい音を出します)。
で「SH-101」なんですが、低価格だしシーケンサーやアルペジエイターもついてるし、間違いなくよいシンセでした。しかし、翌年颯爽とデビューしたのがシンセ界のゲームチェンジャー「DX7」です。そうして時代は、デジタル&MIDIのカップリングが全盛に。
もちろん「DX7」とは価格帯が違います。しかしモノフォニック、音色メモリーなし、CV/GATEのアナログシンセである「SH-101」は、優等生ではあってもインパクトには欠けます。また、時代はMIDI化まったなし状態で、その上ショルダーキーボードも思ったほどには流行らず……。結果「TB-303」ほどの「大失敗」ではないにしろ「大成功」にはちょっと届かない普通の成績で、次第にフェードアウトしていきます。
が、同社の他のミッド・オー・シリーズの例にもれず、ディスコン後、ダンスミュージック界隈でじわりじわりと人気を博し、見事ノリノリの社会人デビューを果たしているのは周知の通りです。
いまでは多数のソフトシンセやコピーモデルまでもが登場し、ヴィンテージ界隈では不動の人気シンセのひとつと言ってよいでしょう。
SH-101のオシレーター
SH-101は「1VCO」「1VCF」「1VCA」という、たいへんオーソドックスな構成のシンセサイザーです。VCOがひとつしかないのでオシレーターシンクも使えず、あまり尖った音はでません。
しかし、複数の波形をスライダーでミックスするスタイルで弱点をカバーし、意外に多彩な音づくりが楽しめます。
で、このオシレーターを「SynthMaster」で再現しようとすると……「Basic」オシレーターは波形選択方式なので単体ではできません。かと言ってオシレーター/モジュレーターを総動員して似たような構成にするのも、けっこうたいへん。
そこで登場となるのが、「Additive」オシレーターになります。
Additiveオシレーターについて
「SynthMaster」の「Additive」オシレーターは、名前も見た目も、正弦波合成用に用意されたオシレーター……に思えます。
が、実際の中身は8つの「Basic」オシレーターを並べた構成になっていて、さまざまに活用できます。
基本操作
「Additive」オシレーターの基本的なパラメーターは、「Basic」オシレーターに準拠します。
ノブが並んでいる縦の一列が1オシレータ分に相当し、各オシレーターには異なる波形が設定できます。「Volume」「Pan」「Detune」なども8基分ならんでいるので、聴き比べながらの調整が可能です。
ピッチは「Integer(レシオ)」の他、「Semitones(半音単位)」での指定もできるようになっています。
アルゴリズムの設定
「Additive」オシレーターでも、「Basic」オシレーターと同様に「アルゴリズム」が利用できます。
アルゴリズムのパラメーター設定は、ここから切り替えます。
パラメーターのラベルは「Phase」と「Tone」で表示が固定されていますが、実際には選択しているアルゴリズムによって効果が異なります。
たとえば「Sync」系のアルゴリズムでは、「Phase」は「Sync」に、「Tone」は「Hi Cut」に相当します。
このへん、マニュアル(英語)にもはっきり書いてないので、ちょっととまどいます(「Phase」と「Tone」でも、そんなに間違ってはいませんが)。っていうか、ユーザビリティの部分はもうちょっと頑張って欲しいところですね。せめて表記の統一くらいは……。
SH-101オシレーターをつくる
では、本題に入りましょう。
「Additive」オシレーターを使って、「SH-101」風のオシレーターをつくってみます。
ただし完全なシミュレートをめざしているわけではないので、同じ音が出せるわけではありません。あくまで機能的に近づけていく方向です。
オシレーターの構成
まず、「SH-101」のオシレーターの構成を見てみます。
「1VCO」ですが、波形は「パルス波」「ノコギリ波」にプラスして「サブオシレーター」と「ノイズ」を「ソースミキサー」でミックスできる仕様になってます(ごめんなさい、手元に実機がないのでソフトシンセ「TAL BassLine 101」の画面です)。
パルス波は、パルスの「幅」を変調して音色を変化させることができます。いわゆるPWM(パルス・ワイズ・モジュレーション)ですね。モジュレーションソースには「LFO」と「ENV」がアサインできます。「MAN」にすれば、スライダー値がそのままパルス幅の設定値になります。
また、サブオシレーターは1〜2オクターブ下の矩形波(50%のパルス波)、もしくは2オクターブ下のパルス波を合成できます。
ということで、このスペックを満たすようにオシレーターを構築していきましょう。
まずはノコギリ波から
「ノコギリ波」の部分をつくります。
[Osc1]を選択し、「Additive」オシレーターに切り替えます。
基本波形の「Sawtooth」でもかまいませんが、シングルサイクル波形に「Roland SH-101」があったので、せっかくなのでそれを使ってみます。
ピッチを整えます。
「Freq」を「4」(セミトーンなら「24s」)に設定して、あらかじめピッチを2オクターブ上げておきましょう(今後、2オクターブ下のパルス波も加える予定のため)。
で、全体にかかる「Pitch」を2オクターブ下げて、プラス/マイナスを精算して準備完了です。
シングルサイクル波形はサンプリングです。アナログシンセ音の場合は個体差もあるので、SH-101っぽくないなぁと思ったら「アルゴリズム」を使って調整するのもありです。
パルス波
パルス波を設定します。
シングルサイクル波形に「Roland SH-101 2」があります。こちらの波形はスライダー値「5」くらいにしたパルス波をサンプリングしているようですね(「Roland SH-101 3」はたぶん2オクターブ下の幅の狭いパルス波)。アルゴリズムの「Pulse 1」でPW幅を設定してもよいですが、あまり音を近づけられなかったので、素直に基本波形の「Pulse」を使います。
ノコギリ波を設定したオシレーターの隣に、基本波形の「Pulse」を設定します。ついでにフリケンシーも同じ「4」にします。
なお、この「Pulse」はちょっと特別で、「Phase」パラメーターが位相のズレではなく「パルス幅」を調整します。つまり、ここをモジュレーションすればPWMの働きをするわけです。
「Phase」パラメーターをセンター位置にすると、「SH-101」で「PW」を「MAN(マニュアル)」、かつスライダー値を「0」にしたのと同等の音になります。
「ShynthMaster」では、ノブとパラメーターの動きの変化は「SH-101」の実機とは逆ですね。さわればわかるので、あまり気にしなくてもよいです。
また、ノブを「0」にする、もしくはマックスに振り切ると、音がでない状態にります(振幅0%もしくは100%となり、波形がフラットな直線になる)。これはバグではないので、調整時は注意してください。
PWMを設定する
「SH-101」の実機ではパルス波にPWMをかけられますので、それを設定します。
先ほどパルス波のオシレーターの「Phase」ノブを右クリックします。
モジュレーションソースがプルダウンから選べるようになるので、任意のLFOを選択しましょう。
これで、「Phase」パラメーターのモジュレーション(実際にはパルス幅のモジュレーション)に、LFOがアサインされました。ちなみにエンベロープをアサインすれば、「ENV」でのモジュレーションになります。
で、もう一度「Phase」ノブを右クリックすると、「Modulation 2 Source」が選択できるようになってます。
このように「SynthMaster」では、ひとつのターゲットに対して複数のソースからのモジュレーションが可能です。ここに任意のエンベロープをアサインしても構いませんが、うまく機能させるにはいろいろ調整が必要になります(今回は設定しません)。
このへんの詳細は「モジュレーションソース」の回で説明する予定です。
サブオシレーターとNOISE
「SH-101」のサブオシレーターは、1オクターブまたは2オクターブ下の矩形波(とパルス波)がスイッチで切り替え可能です。「SynthMaster」ではさすがにスイッチまではつくり込めませんので、今回は波形を並べてボリュームノブでミックスする形式にします。
まず、パルス波オシレーターと同等のセッティングを、隣のオシレーターに設定してみましょう。フリケンシーは、1オクターブ下の「2」です。
さらに、2オクターブ下のオシレーターは、フリケンシー「1」にします。幅の狭い方のパルス波も同様にフリケンシーは「1」、ただし「Phase」の値をいじって、音に違いを出します。15〜20くらいがよさげです。
こんな感じです。
なお、今回は贅沢に3つのオシレーターをサブオシレーター用に使ってますが、「Freq」と「Phase」を都度、手動で設定することにして、ひとつにまとめてもかまいません。
最後にノイズですが、普通に「Noise」をアサインします。
あとは「TONE」でお好みのノイズカラーに調整すればOKです。
こんな感じで、波形バランスを「Volume」で調整するオシレーターが完成です。
セーブする
せっかくつくったオシレーターなので、単体でセーブしておきましょう。
「SynthMaster」には音色のプリセットとは別に、「パーシャルプリセット」と呼ばれるパーツ別のセーブ機能があります。
オシレーターモジュール右上の[Save]ボタンを押すと、パーシャルプリセットをセーブできます。
パーシャルプリセット機能はオシレーターだけでなく、「アーキテクチャー」「フィルター」「モジュレーションソース」のすべてのモジュールで使えます。こんな感じで部品をたくさんつくっておけば、シンセサイズの幅もどんどんと広がっていきます。
さて、今回は「Additive」オシレーターに焦点をあてましたが、「SynthMaster」は本当に奥が深いシンセサイザーです。その他のオシレーターも工夫次第でいろいろ楽しめます。プリセットも抜群によいですが、自分でいろいろ触ってみて、他人とは違う音色を追求するのもまたよいんじゃないでしょうか。
では、次回は「フィルター」モジュールを見てみます。
(※次回につづく)