スポンサーリンク

KV331 Audio SynthMasterでFMシンセをDIY

KV331 SynthMaster FM

ソフトシンセで一個しか使っちゃいけないしばりがあるとしたら……やはり「SynthMaster」でしょうか。

と、知らない人のために簡単に紹介しておくと、「SynthMaster」はトルコのKV331 Audioが開発するソフトウェアシンセサイザーです。トルコ産シンセというのもなかなかめずらしいですが、これ、機能もサウンドもモンスター級。しかもけっこう軽い音も良い、やれることはモジュラーシンセ並みという、なかなか素敵なソフトウェアです。

で、今回はこれを使って、ちょっと遊んでみたいと思います。
タイトルどおり、FM音源をつくってみます。

しかし、バージョンもとうとう2.9になってしまいました。いつになったら3.0がでるんでしょう…。

SynthMasterの基本

プラグインを立ち上げると、こんな感じ。

KV331 SynthMaster メイン画面

めっちゃ素っ気ないです。スッピンです。でも美人です。
処理負荷を少しでも軽くするために画面デザインはシンプルにしてるんだとか。

SynthMasterのすごいところ

で、「SynthMaster」の何がすごいのかというと、ずばり「ほぼ何でもできる!」こと。

基本的にはオシレーター波形をフィルターで加工していく減算方式のシンセサイザーなんですが、いたるところに異常なまでのこだわりが見られます。

オシレーターだけ見ても、基本的なシンセ波形はもちろん、マルチサンプリング波形や数々の銘機からサンプリングされたシングルサイクル波形なども膨大に備えています。

それらを鳴らすオシレーターモードも「Basic(とはいいつつOscひとつで16ボイスユニゾンも可能)」にくわえて「Additive(正弦波合成だけかと思ったら実は×8スタックのマルチオシレーター)」「Wavetable(自分でユーザーテーブルが組める。もちろんシングルサイクル波形は全部使える)」「Vector(波形にマルチサンプルもアサイン可)」「Audioin(外部入力した音をソースに使える)」と、モードのならびを俯瞰しただけでも「あ、これヤバイ奴や」とわかります。

SynthMasterのオシレーター一覧

加えて、異常なまでに自由度が高いモジュレーション

モジュレーションソースも豊富で、アイデアさえ浮かべば可能性は無限に広がります(ちなみに上記オシレーターモジュールのすべてのノブが、モジュレーションマトリクスのターゲットになります)。

SynthMasterのFMシンセシス対応

で、いろいろなオシレーターモードを持つ「SynthMaster」ですが、実は「FM音源」オシレーターは存在しません。

あれ?って感じですね。UVI社のサンプラーワークステーション「Falcon」なんかにも、そのものずばり「FM」があったりするのに……。

UVI FalconのFMオシレーター
FalconのFMオシレーターは4オペです

なんでないの?と思うかもしれませんが、実は「SynthMaster」の場合、既存のモジュールの組み合わせでFMシンセシスを実現しています。このへんが「SynthMaster」のすごいところです。

今回はそのやり方を試してみます。

SynthMasterの操作

その前にちょっとだけ、「SynthMaster」の操作について説明しておきます。

「SynthMaster」は、基本的には2レイヤー/各2オシレータの減算方式のシンセサイザーです。
セミモジュラー形式で、フィルターのルーティングが選べるかたちになってます。

既存のソフトシンセでいちばん近いのは、Roland社の「ZENOLOGY」でしょうか(こちらの方が後発ですが)。というか「SynthMaster」を最初にさわったとき、Roland社のデジタルシンセのストラクチャーに近い感覚を覚えたので、そう思えるのかもしれませんが。とにかく、古今東西あらゆるシンセのサウンドを出してやろうというコンセプトで、そのために必要な機能は全部ぶちこむという、まさに「マスター」の名にふさわしいソフトウェアです。

さて、操作画面は大きく5つのセクションにわかれています。

SynthMasterの操作画面の説明

こまかな説明はまたの機会にしますが、ボイスの「アーキテクチャー」を設定し、「オシレーター」「モジュレーター」「フィルター」(とエフェクト)の各モジュールを連結して音をつくっていく仕組みは、他のソフトウェアシンセと大きな違いはありません。

ただし、用意されているモジュールの数とバリエーション、設定できるパラメーター数がとにかく膨大です。

そのためか「難しそう」とか「音作りの敷居が高い」と思われがちな「SynthMaster」ですが、理解さえしてしまえば、ほどよく整理されたシンセサイザーであることがわかります。

FM音源をつくってみよう

まずは音色をイニシャライズします。

画面のプリセット名の部分をクリックしてプルダウンを表示します。
メニューから「Init Preset」を選択すれば、イニシャライズ完了です。

プリセット初期化

つづいてアーキテクチャーのセクションを見てみましょう。

オシレーターのオン/オフ

ここでは、オシレーターフィルターエフェクトの各モジュールの接続オン/オフが制御できます。

オン/オフは、モジュールのクリックでトグル式に切り替わります。
いまはイニシャライズされたばかりなので[Osc1]のみが有効。その他のモジュールはオフになっています。この状態で音を鳴らせば、ノコギリ波の音がでます。

オシレーターモジュールについて

では、オシレーターモジュールを見てみます。

オシレーターの選択タブ

「SynthMaster」では、6つのオシレーターモジュールがあります。
うちふたつが[Osc1][Osc2]で、そのまま2オシレーターシンセの発音部になります。
ちなみに上記画面は「Basic」オシレーターモードの画面です。

で、残りの「Mod1〜4」が、モジュレーションソースとして用意された、専用の「モジュレーター」です。

ただ、モジュレーションソース専用とはいっても、「Osc1〜2」の「Basic」オシレーターと同等の機能を持っています。基本波形の選択はもちろん、膨大な数のシングルサイクル波形や、マルチサンプリング波形なども普通に使えます。

モジュレーターの選択

3オシレーターのシンセで「Osc3」をモジュレーション専用にできる機種がありますが、あらかじめそれが4個用意されていると考えれば、わかりやすいでしょうか。

なお、本来は発音用ではない「Mod1〜4」ですが、設定次第で普通に「オシレーター」としても使用可能です。

まずは2オペレーターのFM音源から

それではオシレーターセクションを使って、おなじみ2オペFM音源をつくってみます。

Osc1]をキャリア、[Mod1]をモジュレータとみたてて、セットアップします。

Osc1]の波形を設定しましょう。

タブを[Osc1]に切り替えて、ディスプレイされている波形をクリックしてください。
プルダウンメニューが表示されます。ここで、[Sine](サイン波)を選びます。

Osc1でサイン波を選択

ついでに[Mod1]も見てみます。
こちらは、最初からサイン波になってますね。

Mod1の確認

この状態で音を鳴らすと「ポー」という、[Osc1]のサイン波が発音されます。

オシレーターとモジュレーターの接続

では、[Osc1]と[Mod1]を接続して、2オペ音源にしてみます。
これです。

2オペレーターのFM音源の概念図

アーキテクチャーセクションを操作して、[Mod1]を[Osc1]に接続しましょう。
[Osc1]の左隣の[None]をクリックして、プルダウンメニューを表示します。

モジュレーターをアサインする

メニューから[Modulator 1]を選択すれば完了です。

[Osc1]との接続部分が[Phase]になっていることに注目してください。
ここのメニューでは[Osc1]への接続モードが選択できます。

メニューには[Phase Modulation(波形への位相変調)]と[Frequency Modulation(ピッチへの変調)]があります。

位相変調を選択する

詳しい説明は省略しますが、FM音源は[Phase]が正解です。

FM音源なのに変調は[Freq]じゃなくて[Phase]というのもややこしいですが、このへんの説明はやはりWikipediaが詳しいでしょうか。

ちなみにCasio CZシリーズの音源は「PD(Phase Distortion)」と呼ばれていますが、実はやってることはFM音源と大差ありません(読み出し波形がサイン波/コサイン波の違いがありますが、なんとなくこれ特許絡みなような気も……)。このへん、比較しだすと長くなるのでまたの機会に。

パラメーターをいじる

では、音を出してみましょう。
音が変わってますね。サイン波ではなくなってます。

この状態で、[Mod1]の設定をいろいろいじってみましょう。
[Mod1]の「Volume」は、[Osc1]への変調レベルになります。

フリケンシーレシオを設定する

ここを動かすと音色が変化するのがわかりますね。いっぱいまでしぼればモジュレーション値「0」となり、[Osc1]の波形はサイン波に戻ります。

Frequency」と「Course Tune」も変えてみましょう。DXシリーズでいうところの「フリケンシーレシオ」です。ぐりぐり音色がかわります。

はい、これで2オペレーターのFM音源オシレーターが完成しました。

エンベロープを設定してみよう

せっかくなので、もうひと工夫してみます。
エンベロープジェネレーターを接続して、音色に時間的な変化をつくりましょう。
これですね。

FM音源のイメージ

モジュレーターセクションからエンベロープの[ADSR1]を選択します。

エンベロープジェネレーターを選択

この状態で、モジュレーションマトリクスのセクションを見てください。

モジュレーションマトリクスの確認

「SynthMaster」はセミモジュラー形式のソフトシンセなので、[ADSR1]が「レイヤー1」および「レイヤー2」の「Voice Volume」にあらかじめ接続されているのがわかります(今回は「レイヤー2」は使いません)。

この状態で、[ADSR1]のパラメータを操作すれば、キャリア側(音量)のエンベロープとして機能します。

SynthMasterのエンベロープジェネレーター

ちなみにこのエンベロープジェネレータ、少し変わっていて、「A」「D」「R」のそれぞれのタイムにスロープを設定できます。

エンベロープジェネレーターのスロープパラメーター

「SynthMaster」には、この「ADSR」が4基装備されていて、自由にパッチング可能です。
この他に、マルチステージエンベロープも2基あります。DX7に近づけるなら、こちらを使う手もあります。

また、全部で6基あるLFOには、それぞれ個別に「AR」エンベロープ(ディレイつき)が備えられていてます。これ、普通のソフトシンセだとマトリクスモジュレーションで実現するような機能ですね。モジュラーシンセならVCAつきのLFOにEGを接続というひと手間が必要です。

このへんのてんこ盛り加減が「SynthMaster」の魅力のひとつでもあります。

モジュレータ側のエンベロープ

では、モジュレーター側にもエンベロープを設定します。
こちらは[ADSR2]を使いましょう。

オシレーターセクションを[Mod1]に切り替えてください。

「Volume」ノブを右クリックして、サブメニューを表示します。「Modulation 1 Source」−「Envelopes」−「ADSR Envelope 2」を選択します。

ADSR2にモジュレーションをアサイン

これでアサイン完了です。

エンベロープセクションで[ADSR2]を選択し、モジュレーションマトリクスを見てみましょう。

ADSR2に設定されているモジュレーション

「ADSR Envelope 2」が無事「Mod1: Volume」に接続されたのが確認できます。
あとは「ADSR2」のパラメーターを調整すれば、モジュレーターに時間的変化がつけられます。

モジュレーションマトリクスの活用

なお「SynthMaster」の操作パネル上に用意されているほとんどのノブは、モジュレーションマトリクスに対応しています。

「LFO」や「Keyscaler」を「Osc 1」や「Mod 1」の各種パラメーターにアサインしていけば、より本格的なFM音源に近づけます。

キーボードスケーリングの設定

ちなみに「Keyscaler」は4基が用意されています。設定できるポイント数も多く、DXシリーズを超えた調整も可能ですね。

キーボードスケーリングの設定画面
ポイントは任意に設定できる

なお、今回は[Osc1]しか使ってませんが、[Osc2]側も使うと、エンベロープの結線作業だけでもひと作業になります。慣れないと若干面倒臭いと感じるかもしれませんが、感覚的にはモジュラーシンセのパッチングに近いので、慣れてくるとだんだんと楽しくなってきます(特に想定どおりに組み上がったとき)。

アルゴリズムのバリエーション

また、ボイスストラクチャーでモジュレーターの組み合わせを変更すれば、より複雑なアルゴリズムも再現できます。こんな感じです。

SynthMasterでFMアルゴリズムを実装する例

これだけでも、さまざまな音がだせるFMオシレーターが完成します。モジュレーター側のエンベロープを設定しなくても、フィルターで音色をつくり込むのもありですね。

ちなみに「SynthMaster」は、2レイヤー構成です。
が、ファクトリープリセットを見ても、レイヤー2は未使用なケースが多いようです。

既存のプリセットにFMシンセっぽいエッセンスを足したいなんて場合は、使われていないレイヤー2側を活用してもよいでしょう。

レイヤーの on/off
プリセットでここがオフになっていれば、そのレイヤーは未使用

さて、駆け足での解説になりましたが、「SynthMaster」の可能性の一端くらいは感じていただけたでしょうか。

今回はサイン波しか使ってませんが、FMに使える波形もサンプリング波形も含めて無限です。また、フィルターモジュールやエフェクトモジュールもたくさんあるので、既存のFM音源の常識にとらわれない音づくりも楽しめます。

ほんと、遊びはじめると止まらなくなるシンセです。

こんなたまらない魅力にあふれた「SynthMaster」ですので、またの機会に、そのほかの機能も紹介できればと思います。

関連リンク