「SynthMaster」のフィルターは、これでもかというくらい機能がてんこ盛りです。また、他のシンセではあまり表に出ないようなパラメーターまで、ユーザーが触ることができたりします。
今回はそんな奥深い「SynthMaster」の多彩なフィルターモジュールの使い方を、ひととおりさらってみましょう。
フィルターの設定
「SynthMaster」では、フィルター2個のルーティングをアーキテクチャーセクションで設定します。
また、それぞれのフィルターのパラメーターは、フィルターセクションでおこないます。
ルーティングの設定
フィルターのルーティングは3種類です。ふたつのフィルターを、「Split」「Parallel」「Series」に接続できます。また、[Filter 1][Filter 2]はそれぞれトグルボタンになっていて、オン/オフを設定できます。
ソフトシンセではよくある感じの組み合わせですね。
フィルターがひとつで足りる場合は、片方をオフにすればOKです。
フィルター操作の切り替え
カレントで操作するフィルターは、フィルターセクションの[Filter 1][Filter 2]タブで切り替えます。
用意されているパラメータはフィルター1/2で完全に共通です。
なお、「SynthMaster」に用意されているフィルターは、デジタルからアナログモデリングまで全部で6種類。
フィルターアルゴリズムを「Digital」「VAnalog」「Ladder」「Diode Ladder」「SVF」「Bite」に切り替えることによって、異なった特徴のフィルターとして機能します。
アルゴリズムの切り替えは、左クリックでのプルダウンメニューでおこないます。
また各アルゴリズムには、複数のフィルタータイプが用意されています。よくある「ローパス」「ハイパス」などに加えて、「コムフィルター」なんかもありますね。
それでは、それぞれのアルゴリズムを見てみましょう。
Digital
まずは「Digital」フィルター。これは、デジタルの双二次フィルター(いわゆるバイクアッドフィルター)を実現するアルゴリズムです。
バイクアッドフィルターは内部回路の組み合わせで、さまざまな特性を持たせられます。
「Digital」フィルターで選択できるフィルター特性
「LP(ローパス)」「HP(ハイパス)」「BP(バンドパス)」、このへんはアナログシンセでもおなじみですね。
「BS(バンドストップ)」は、カットオフポイントの音域をバッサリ落とすフィルターです。ノッチフィルターといった方が一般的かもしれません。
「LS(ローシェルフ)」「HS(ハイシェルフ)」「PK(ピーク)」は、イコライザーのそれを想像してもらえばOKでしょう。「Cut off」と「Boost/Cut」で音質を調整する感じで使えます。「Reso」も機能します。
「Dual(デュアル・マルチモードフィルター)」はちょっと変わったフィルターで、ふたつのフィルターの組み合わせでできています。そのため、ディスプレイを見てわかるとおりフィルターのカットオフポイントがふたつ存在します。
それぞれがマルチモードフィルターなので、「Mode1」「Mode2」パラメーターで「ローパス」−「バンドパス」−「ハイパス」と、その特性を連続的に可変できます。
なお「Topology」はフィルター接続のシリアル/パラレルの可変、「1/2 Mix」はパラレル接続時の各フィルターを通したサウンドのミックスバランスになります。
最後の「Comb」は、くし形フィルター(コムフィルター)です。撥弦楽器の物理モデル音源で使われてますね。
フィルター・カットオフのスロープが、文字通り「くし形」になっているのがわかります。「Feedback」を調整すると「くし」の歯がのびていき、エフェクターっぽく使えたりします。
なお「Digital」フィルターの後段には、サチュレーションを制御するためのハードリミッターがあてられています。「Attack」「Decay」は、その制御パラメーターになります。
VAnalog
「VAnalog」フィルターは、moogのトランジスターラダーをモデリングしたフィルターです。
フィルター特性は「Digital」フィルターをほぼ踏襲していますが、「Comb」フィルターがなくなり、かわりに「Multi」フィルター(シングルのマルチモードフィルター)が追加されています。
あと、いくつか「SynthMaster」特有のパラメーターもありますので、それを見ていきましょう。
Boost
「Boost」はオンにすることで、フィルターのアウトプットゲインがアップします。
デジタルはもちろんアナログでもそうですが、シンセサイザーのフィルターはレゾナンスを持ち上げていくと音が細くなる(いわゆる「音痩せ」する)傾向があります。その補正に役立つパラメーターです。
Slope
「VAnalog」フィルターで独特なのが「Slope」パラメーターです。
ふつうシンセサイザーでは、フィルター・カットオフのスロープは固定されています。実機のMOOGラダーなら4次(4ポール)フィルターなので「-24dB/oct」になります(1ポール=-6dB/octの減衰特性で、4ポールで-24dB/oct)。スロープが急だと、俗に言う「切れ味が鋭いフィルター」となります。また、スロープがなだらかだとカットオフポイントから漏れ出る音が多くなるため「ウォームなイメージ」の音になります。
で、「SynthMaster」の「VAnalog」フィルターの場合は、このスロープを自由に調整することが可能になってます。
これは、他のシンセサイザーには見られないユニークな機能で、好みの切れ味のフィルターがつくれるわけです。
Nonlinearities
「Nonlinearities」パラメーターは、フィルターの非直線性 (non-linearity、計算精度によって発生するズレというか歪み)の設定です。フィルター回路のモデリング精度を「Basic」「Normal」「High」で設定できます。
「High」がもっとも計算コストが高く滑らかで、「Basic」だとコストは低いですが荒い音になります。とりあえず普通の中低域の音色なら「Basic」でも充分(らしい)です。
Ladder
「Ladder」フィルターも「VAnalog」と同じく、moogのトランジスター・ラダーフィルターのモデリングです。ただし、こちらはゼロ・ディレイ・フィードバックというメソッドを使った実装方法になります(フィルターのエミュレーション方法のひとつで、フィードバック回路の遅延をなくす方程式を使います。こっちの方がCPU効率もよいみたいです)。
フィルターカーブのスロープは「-12dB/oct」もしくは「-24dB/oct」の固定、フィルター特性も「LP」「HP」「BP」「BS」にしぼられています。
Acid
「Acid」ボタンをオンにすると、「Cutoff」の動きに「Reso」のパラメーターが連動するようになります。
これは、「TB-303」フィルターの挙動を意識したパラメーターです。まさに「Acid」ですね。
「Acid」パラメーターは、これから説明する「Diode Ladder」以下のフィルターにも存在します。
Diode Ladder
「Diode Ladder」はダイオード・ラダーフィルターのモデリングです。
先の「Ladder」フィルターがトランジスターだったのに対し、こちらは文字通りダイオードを使ってフィルター回路が構成されます。Roland社のフィルターもこれですね。というか、トランジスターでラダーを構成すると当時はmoog社の特許にひっかかったので。
なお、「SynthMaster」の「Diode Ladder」は「TB-303」のモデリングのようです。
こちらはシンプルに「LP」フィルターのみ。フィルターカーブも「-24dB/oct」固定になってます。
SVF
「SVF」は、ステート・ヴァイリアブル・フィルターです。Oberheim社の「SEM」や「OB-X」、YAMAHA社の「CS-80」なんかもこの形式を採用しています。前述のラダーフィルター系とは回路構成が大きく異なります。
フィルターカーブは「-12dB/oct」固定なので、「SEM」フィルターのモデリングですね。
Bite
「Bite」フィルターは、KORG社の「MS-20」のフィルターをモデリングしたものです(そういえば同社「Gadget」のベースラインシンセサイザー 「Chicago」のフィルターもこれですね。ちょっとヤンチャなフィルターです)。
「LP」と「HP」が選択できますが、それぞれフィルターカーブが「-12dB/oct」「-6dB/oct」と異なっています。そういえばこの形式のフィルターを採用しているシンセって他に知りません。
フィルターのDistortion
さて、こんな感じで搭載されているフィルターを眺めるだけでも「SynthMaster」の持つ結構なポテンシャルがわかるかと思いますが、もうひとつ、そのサウンドクオリティに大きく貢献しているパラメーター群があります。
それが、フィルターサウンドの「歪み」を制御する機能です。
フィルターの「歪み」の設定
たとえばアナログシンセでは、フィルターに入るサウンドをあえてオーバーロードさせるような設計がされている場合があります。デジタルだと簡単にクリッピングしてノイズになりますが、アナログではその音割れ寸前の音が個性として認識され、「アナログシンセは音が太い」といわれる要因のひとつにもなっています。
「SynthMaster」では、そのアナログ的な歪みの部分までも制御できるようになっていて、それをおこなうのが「Distortion」関連のパラメーターです。
「SynthMaster」では、フィルターのディストーションカーブを自由に設定できます。横軸がインプットレベル、縦軸がアウトプットレベルです(天井と底がクリッピングライン)。
また「Distortion」パラメーターで、「どこで歪みを発生させるか?」のルーティングを設定できます。
「Before Filter」でフィルターへの入力段、「After Filter」でフィルターの後段、「Inside Filter」でフィルター内部、「No Distortion」でオフになります。たいていは入力段で歪ませておけば、アナログシンセ的な「太い」と感じる音になります。
なお、フィルターへの入力レベルは「PreGain」と「Drive」で制御します。
「PreGain」はフィルターの入力段で、「Drive」はフィルター内部を構成する各ステージで機能します。このへんまで来ると、なんだかNI社の「Reactor」にも近くなってきますね。
以上、「SynthMaster」のフィルターモジュールを見てみました。
既存のシンセをエミュレートするにせよ新しい音を生み出すにせよ、これだけの機能があれば相当に納得のいく音づくりがおこなえそうです。
さて次回は、こちらも大量にモジュールが用意されている「モジュレーションソース」についてです。
(※次回につづく)